特集記事:朝ドラ「エール」 -双浦環(柴咲コウ)のモデル、三浦環(みうらたまき)と宍戸アンプ

2020年4月放送開始のNHK朝の連続テレビ小説「エール」は、福島県出身の作曲家、古関裕而氏がモデルとなっています。このドラマに登場する戦前の声楽家、三浦環さんと、本サイトにも登場する宍戸公一氏のアンプ(著書「送信管によるシングルアンプ製作集」 誠文堂新光社)との意外な関係が、当サイトをご覧いただいた関係者の方から明らかとなり、特集記事にしました。

1.朝ドラモデルの声楽家、三浦環(1884~1946)とは

日本で最初の国際的オペラ歌手といわれる声楽家で、NHK朝の連続テレビ小説「エール」では柴咲コウが演じる、双浦環(ふたうら・たまき)の実在モデルです。東京音楽学校(東京芸術大学音楽学部の前身)出身で、死後に採取された声紋の型が東京芸大に保存されているそうです。

残念ながら、活動した時期にLPレコードが誕生していなかったため、その歌声はSPレコードでしか残っていません。残されたSPレコードも、ご本人が首をかしげる録音音質で、その魅力を充分に感じ取ることが難しいそうです。これは、世界中のSPレコード時代の演奏家に共通して言われていることですね。

三浦環さんの魅力を感じ取るメディアを何とか後世に残そうとした動きが1993年にありました。SPレコードの研究家が興した東京都板橋区の「おんがくのまち(法人としては有限会社)」が中心となり、復刻CD盤が発売されました。今でいう、デジタルリマスターですね。

現在(2020.4月)、このCD「伝説のプリマ・三浦環」は、元の価格が税込み3000円ですが、AMAZONで中古版が3,397円から8,800円で販売されており、プレミアが付いています。当時、おんがくのまちが、山野楽器に申し入れて、ほぼ独占販売で完売したそうです。

2.宍戸公一氏がCD製作に協力

このCD製作時に、元のSP盤の限られた帯域やダイナミックレンジを払しょくしたものにしたいと、おんがくのまちが協力を申し入れたのが、当サイトでも作品例がある宍戸公一氏(1936年<昭和11年>ー1998年<平成10年>、61歳逝去)です。宍戸氏は、SPレコードの再生研究家としても実績がありました。

現在、宍戸氏の回路(イントラ反転式送信管アンプなど)による完成品アンプは、山形県米沢市の株式会社ウェーバックオーディオラボが、宍戸氏から受けた指導をもとに継続製作されています。

宍戸氏は、月刊「無線と実験」などオーディオ技術誌に製作記事を発表されていました(著書は、そうした記事をまとめたもの)。代表的な「イントラ反転式送信管アンプ」(当サイトの作例は8012A宍戸式送信管アンプ)とは、出力管にオーディオ管ではなく、無線や放送に使われた送信管を使ったものです。
オーディオ管と違い、高電圧で高出力。主に、直熱三極管のフィラメントにトリタンを使っていて明るく光るのも特徴です。シングルでも出力が大きく取れ、オーディオ管と一味違う(メリハリのある明るい音に感じます)音色が大いに魅力的です。

一方で、この送信管は、オーディオ出力管と動作点が違い、プラスの固定バイアスが有効となります。この技術的な課題を克服し、後年特許取得されたのがイントラ反転式という回路です。ドライバー管と出力管の間に段間トランスを入れ、ここでプラスマイナスを反転するといった工夫がされています。

当時、このように卓越したオーディオ技術を持っていた宍戸氏に、おんがくのまちさんがダメもとで交渉したところ、快く協力(SP盤の復刻録音)を引き受けてくれたそうです。LP並にレンジを広げて欲しいという依頼でした。

3.この復刻盤は成功したのか?

デジタルリマスターと上記しましたが、正確に言うとデジタルマスタリングではないので、アナログリマスターといった方が正確かもしれません。ともかくCDという最終的なパッケージがデジタルになった訳です。

こうして、SP盤の音質を圧倒的に上回るCDが出来上がった訳ですが、製作者のおんがくのまちさんは、必ずしも100%満足できたわけではないそうです。声楽に限らず、現在でもクラシック系の音源に共通して言えることですが、再生システムのクオリティが高くないと、そもそも楽しく聴けません。

CD再生において、おんがくのまちさんが、その印象を一新する出来事が、その後に起こったそうです。

CD発売の翌年のオーディオフェア(当時まだ池袋だった時代)に、宍戸氏が宍戸式イントラ反転式送信管アンプで再生デモンストレーションを行ったそうです。CD製作者のおんがくのまちさんは、ここで目から鱗の大感動。苦労して製作したCDに、三浦環の魅力がここまで大きく入っていたことが確信できた出来事でした。

三浦環のCD

4.この続きは、現在進行形となります

おんがくのまちさんから、当サイトに相談がありました。今後この音源を後世に残すためにはどうすればよいか?

クラウドファンディングによるCDの再発売など、様々な構想があるそうですが、何をすべきか何が有効か?現在は検討段階だそうです。これに対して、当サイトとしては、その動きを継続して記事にしていくと同時に、YouTubeチャンネル「百十番のオーディオ情報発信チャンネル」でも、一部音源の公開や、空気録音で協力していきたいと考えています。

また、サイトやYoutube、SNSを通じて、仲間も含め他のマニアのお知恵も拝借したいと考えています。

この動きに関する、情報提供やご提案、ご感想など、お問合せフォームからご連絡いただけると幸いです。

(2020.4月20日、初回記事公開)

早速、本記事をご覧いただいた、山形県のTANGOトランス正規販売店源流ネット様から連絡をいただき、内容を一部修正しました。(2020.4月24日)

5.動画も公開しました

宍戸アンプ(残念ながらイントラ反転式送信管アンプが故障中で、2A3ロフチンホワイト使用)で、実際の三浦環のCD中の1曲を空気録音しました。曲目は「宵待草」です。不可解なことに、テネシー州の音楽著作権団体から著作権の主張が来ましたが、視聴には問題ありません。ぜひご視聴ください。