
今回の記事は、前回の「マランツ7の音を安く再現しよう!ライン専用プリアンプの設計」の続編です。
前回の記事は、マランツ7の回路を解析し、フォノイコライザーとトーンコントロールを省略した現代向けのラインアンプを設計するところまででした。
今回は、その回路を実際に「魅力あるDIY真空管アンプチャンネル」さんに製作していただき、実機を聴いてみた結果、予想を超える発見があったという展開です。製作した同チャンネルのSさんによると、ライン段のみの簡易版なので手持ち部品で格安に組めたとのことです。
↓↓製作報告はこちらのチャンネルに動画でまとめられています。
今回は、なぜマランツ7が60年以上経った今でも伝説的な評価を受けているのか、その音の秘密に迫る体験記です。
1958年に登場した真空管プリアンプの名機、マランツ7(マランツ#7)
発売から60年以上が経過した現在でも、その評価は衰えるどころか、状態の良いオリジナル品には200万円ともいわれる価格が付くほどです。
前回記事でもふれましたが、以前から不思議に思っていたことがあります。
マランツ7は、フォノイコライザーアンプが優秀である一方、ラインアンプについては、それほど特別な回路ではないという評価を耳にすることがあります。ところが、実際にはCDやDACなどのデジタル再生でも高い評価を受けているのです。
さらに、ビンテージ部品でなければ本来の音が出ないという説まであります。いったい、マランツ7の音の魅力はどこにあるのでしょうか?
今回は、そんな疑問に決着をつけるべく、前回の記事で検討したマランツ7のラインアンプ回路を実際に製作し、試聴することになりました。
しかも、実際に聴いてみると、予想を大きく超える結果が待っていました。正直なところ、これまでのオーディオに対する考え方が変わるほどの体験でした。
前回記事のおさらい:マランツ7の音を現代部品で再現する
まず、今回の企画の経緯を簡単に説明しておきます。マランツ7は、真空管プリアンプの歴史を代表する名機です。その回路を現代の部品で再現しようという試みは、以前から多くの研究家や自作愛好家によって行われてきました。

最近では、YouTubeの「宮甚商店」さんが880円のシャーシを使った製作を公開したり、「魅力あるDIY真空管アンプ」チャンネルさんが一連の復刻製作に取り組んだりと、改めて注目を集めています。
私自身も、こうした取り組みに刺激を受け、マランツ7の回路を改めて調べてみることにしました。そこで考えたのが、現代のデジタル再生環境に合わせたラインアンプ専用の構成です。
現在はCDプレーヤーやDACを中心に音楽を楽しむ人も多く、アナログレコード用のフォノイコライザーやトーンコントロールを必要としないケースも少なくありません。
そこで、それらの回路を省略しながらも、マランツ7本来のラインアンプの設計思想をできるだけ残すという方向で回路を検討しました。特に重視したのは、一般的なコピー回路で見られるような独自のアレンジを極力避け、オリジナルの回路構成に近づけることです。
回路の詳細については、前回の記事で紹介しています。
▶ 前回の記事はこちら
そして、今回はいよいよ実機による検証です。
二十年来のオーディオ仲間とのコラボレーション
実は、今回の製作は私自身が行ったものではありません。お願いしたのは、長年のオーディオ仲間でもある「魅力あるDIY真空管アンプ」チャンネルさんです。
回路図だけで音の良し悪しを語っても仕方ありません。まずは実際に組み上げて、自分のシステムで聴いてみたい。
そう考えて製作を相談したのですが、こちらが九州へのオーディオ旅行や身内の冠婚葬祭などでバタバタしている間に、何と先方は手持ちの部品を使って、あっという間に実機を完成させてしまいました。
さすが、長年真空管アンプを製作しているベテランです。完成したアンプを送っていただき、いよいよ自宅のオーディオシステムに組み込むことになりました。
今回は、こうしたコラボレーションがあったからこそ実現した企画です。製作の詳細については、ぜひ「魅力あるDIY真空管アンプ」チャンネルさんの動画もご覧いただきたいと思います。
実際に製作した電源回路付きの回路図
以下が、最終的に「魅力あるDIY真空管アンプ」チャンネルさんが、調整し、電源回路も加えた実機版の回路図です(たまたまセレン整流器が手持ちにあったとのことで、それを入れていただきましたが、ダイオードに置き換える場合は、制作報告動画にてアドバイスされています)。


実際に聴いて驚いた!予想を超える音の変化
さて、肝心の試聴結果です。実際に聴いてみて、最初に感じたのは高音の抜けの良さでした。これは、単純に高域が強調されているという印象とは違います。
音の見通しが良く、今まで聴いていた音の上に、もう一段空気が広がったような感覚です。
そして、意外だったのが低域です。高音の抜けが良くなると、相対的に低域が物足りなく感じることもありますが、今回はそうではありません。
低域にも十分な厚みがあり、聴感上の帯域が大きく広がったように感じます(あくまでも聴感上の話で、測定するとそうでもないことが多いですが)。さらに、音楽そのものが楽しく聴こえるのです。
ボーカルや楽器の輪郭が明瞭になり、音像が前に出てくる。音の芯がしっかりしている一方で、窮屈さがありません。
特に印象的だったのは、まるで高度な位相調整を施したような音のまとまりです。音像の輪郭がカチッと決まり、各楽器の位置関係が明瞭になる。
これまでにも様々なオーディオ機器を試してきましたが、今回のような変化はそう簡単に体験できるものではありません。思わず「今までのオーディオは何だったのだろう?」と考えてしまうほどでした。
マランツ7の音の秘密はどこにあるのか?
ここからは、今回の試聴結果を踏まえて、私なりに考察してみたいと思います。
まず、マランツ7のライン段は平凡だという評価についてです。確かに、回路図だけを眺めれば、特別に複雑な回路というわけではありません。
しかし、そこに使われている負帰還回路の構成や、各段の動作条件、位相補償などを含めて考えると、単純に増幅段の数や回路の見た目だけで評価できるものではないと思います。特に注目したいのが、負帰還ループの設計です。
海外の自作派やレストア技術者の間でも、マランツ7の音の秘密は真空管そのものの特性だけではなく、NFループ内の時定数や位相補正の絶妙なバランスにあるのではないか、という見方があります。
今回の試聴で感じた、音像の輪郭や抜けの良さは、こうした回路設計の特徴と何らかの関係があるのかもしれません。もちろん、聴感上の印象だけで位相特性や回路動作を断定することはできません。しかし、単純な増幅回路として片付けるには、あまりにも興味深い結果でした。
真空管アンプ特有の倍音の効果もある?
もう一つ考えたいのが、真空管アンプ特有の高調波歪みです。真空管アンプでは、動作条件や回路構成によって、入力信号に対してさまざまな高調波成分が付加されます(歪を打ち消すなどでこれを抑えている例外回路もありますが)。
その結果として、音に厚みや艶が加わり、ボーカルや楽器が前に出てくるような印象につながる場合があります。もちろん、倍音が付加されれば必ず音が良くなるという単純な話ではありません。
しかし、今回感じた音の輝きや空気感、音楽の楽しさには、こうした要素も関係しているのではないでしょうか。マランツ7の魅力は、単純に高忠実度という尺度だけでは説明しきれない部分があるように思います。
マランツ7の200万円という価格をどう考えるか?
ここで、少し違った角度から考えてみたいと思います。現在、状態の良いマランツ7には200万円ともいわれる価格が付いています。もちろん、希少なビンテージ機器ですから、骨董的な価値も含まれています。
仮に、その価格を私なりに分解してみると、次のような考え方もできるのではないでしょうか。
- 骨董品としての価値:50万円
- 整備やビンテージ部品にかかる価値:50万円
- フォノイコライザーやトーンコントロールの価値:50万円
- 純粋にラインアンプとしてのオーディオ的価値:50万円
もちろん、これはあくまで私の仮説であり、実際の価格を査定したものではありません。
ただ、今回のようなラインアンプだけでも、これほどの音の魅力を体験できるのであれば、マランツ7の価値を改めて考えてみる必要がありそうです。「魅力あるDIY真空管アンプ」チャンネルのSさんが手持ち部品で格安に(自称)組んだアンプが、50万円の価値であるとすれば、嬉しい話だと思います。
そして、ビンテージ部品を使うことで、さらに良い結果が得られる可能性もあります。しかし、それは今後の検証課題です。
過去に体験した、もう一つの衝撃的な試聴
実は、今回の体験には、過去に一度だけ似たような記憶があります。私はこれまで、数多くのオーディオ試聴会やイベントに出かけてきました。しかし、今回のように、それまでのオーディオ観が変わるほどの体験は、そう何度もありません。
その一つが、以前参加した氏家高明氏の試聴会でした。
氏家氏は技術誌(ラジオ技術)のライターとしても活躍された研究家で、独自の回路やスピーカーなどを使った試聴会を開催されていました。マランツ7を研究した記事も著書に収められ、「魅力あるDIY真空管アンプ」チャンネルさんが追試報告の動画を複数公開されておられます。

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そのときの音も、一般的なオーディオ試聴会で聴く音とはかなり違っていました。イコライザーもスピーカーも氏家氏のオリジナルで、非常に濃密な音だったと記憶しています。
単に音響機器の性能を確認するというよりも、生演奏に近い何かを体験するような試聴会でした。
今回のマランツ7の試作機を聴いて、ふとそのときの記憶がよみがえりました。もちろん、両者の回路や音作りが同じというわけではありません。
ただ、オーディオ機器の音を聴いているという感覚を超えて、音楽そのものに引き込まれるような体験という意味では、共通するものがあったように思います。
それでもマランツ7には賛否両論がある
ここまで絶賛してきましたが、マランツ7の評価が誰にとっても絶対的なものだとは思っていません。
実際、マランツ7については、ベテランのオーディオマニアの間でも意見が分かれています。ライン段の評価が低い人もいれば、真空管の使い方そのものに疑問を呈する人もいます。
また、マランツ7の音は高忠実度再生というより、独特の音色を演出したものではないか、という意見もあるでしょう。これは、オーディオにおける根本的な価値観に関わることでもあります。
入力された信号を可能な限り忠実に再現することが最も重要なのか。それとも、音楽をより魅力的に聴かせることにも価値があるのか。私自身も、今回の体験を通じて、改めて考えさせられました。
ただ、一つだけ言えることがあります。
実際に聴かずに、回路図や測定値だけでマランツ7を評価するのは、少しもったいないということです。今回、製作を担当していただいた「魅力あるDIY真空管アンプ」チャンネルさんの言葉が印象的でした。
「一度は体験してほしい」
まさに、その通りだと思います。
空気録音で比較試聴してみよう!
最後に、今回の企画の締めくくりとして、空気録音による比較試聴を行いました。比較したのは、通常のラインアンプを使用した場合と、今回製作したマランツ7モデルのラインアンプに変更した場合です。
もちろん、空気録音はマイクや録音環境、再生環境の影響を受けますので、実際の試聴体験を完全に再現できるものではありません。
それでも、音の違いを確認する参考にはなると思います。ぜひ、ヘッドホンなどで聴き比べてみてください。
まとめ:マランツ7の謎は、まだ奥が深い
今回のコラボ企画を通じて、マランツ7の音の魅力について、これまでとは違った理解が得られました。
特に、フォノイコライザーやトーンコントロールを省略したラインアンプだけでも、これほど魅力的な音が得られたことは大きな発見でした。
そして、改めて感じたのは、名機と呼ばれる機器には、単純な回路図や部品のスペックだけでは説明しきれない設計思想があるということです。今回の結果が、マランツ7の音の秘密をすべて解明したというつもりはありません。
むしろ、さらに興味が湧いてきました。ビンテージ部品を使ったらどうなるのか。オリジナルのマランツ7と比較したらどうなのか。そして、今回の回路をさらに多くの自作派の方々に試していただいたら、どんな結果が得られるのか。まだまだ楽しみは尽きません。
今回の回路が、マランツ7の音に興味を持つ自作派の皆さんにとって、新たな発見につながれば幸いです。







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