「ハイエンドシステムはダメ?」海外評論家のオーディオ・レポートをご紹介

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JBL展示
※写真はイメージです

 最近興味を持ったオーディオ関係のレポートで「神はニュアンスに宿る(翻訳タイトル)」マーカス・ザウアー著(原文公開日:2000 年 1 月 19 日)というのがあります。

 もともとは、ifiオーディオの英国本国の技術者(主任エンジニア、トルステン博士)が同社のサイトで、マニアに薦めていたレポート(エッセイ?小論文?)です。

 真空管の良さを説明するくだりです。原文はこちらにあります。

 折角なので、読んでみようと試みたのですが、専門用語やその記述も多いため、並の英語力では太刀打ちできず、機械翻訳してもさっぱりわかりません。

 というわけで、約1週間かけて、和訳・意訳してみました。それでも約4,300字という結構な量でした。折角苦労したので、広く共有したいのですが、著作権の関係でそれは難しく、要約もダメで引用のみが許されるという状況です。とはいえ、何とか許される範囲で情報共有したいと思います。

まずは自分の言葉でYouTubeで説明動画を公開しました

公開したところ、意外に反響が大きく、続編も制作中です。

全体の構成

1.ザウアー氏のハイエンドシステムに対する疑問

2.ドイツの心理学者、アッカーマン博士のブラインドテストについて

3.ここまでの結論と類似した意見の紹介

4.具体的な問題点の指摘(モノラル再生の実験、マルチマイク収録の課題、音場・ディティール・測定について)

5.フランスの評論家、ジャン・マリー・ピエル氏の音楽鑑賞論

6.真空管ラジオなど古いテクノロジーは優れていた(スピーカー、アンプなど)

7.現代(2000年当時)ハイエンドは間違った方向に進化?

8.まとめと読者とのやりとり

 かなりザックリですが、番号付けは当サイト独自です。ここまででも結構疲れる内容の濃いレポートです。

 以下、自分なりに理解したエッセンスを自分の言葉で(著作権に障らないよう)紹介したいと思います。なお、日本のオーディオファンの「公共目的?」のために和訳を掲載させて欲しいとメールで申請しましたが、今のところ返答はありません。相手も商用メディアなので、可能性は低いと思っています。

オーディオ評論家、マーカス・ザウアー氏について

 調べたところ、マーカス・ザウアー氏本人は、2015年にがんによって惜しくもこの世を去ったようです。レポートの15年後ですね。紹介記事の2000年頃には、すでに5年以上のキャリアで第一線のオーディオ評論家として、ハイエンドを含む多くのオーディオ製品のレビュー記事を執筆するなど活躍していました。

 当時の彼のシステムは、クラシックタイプの2Wayスピーカー「Epos ES 14s」、低出力(20W)の小型プリメインアンプ「Naim Nait II インテグレーテッド アンプ」でした。スピーカーの必要と思える出力は満たしておらず、最大音圧と強弱表現が充分でなく、低音はよりタイトになる傾向があるものの、レビューで扱う当時のハイエンドを含む製品と比べて、「感情的には」非常に満足のいく組み合わせだったようです。

ザウアー氏のハイエンドシステムに対する疑問

 上記のようなシンプルな組み合わせにもかかわらず、試しにそこに2つのプリアンプとパワーアンプの組み合わせを数週間の期間をとって試してみたものの、それを上回る満足度は得られなかったとのことです。試した製品は、当時欧米のオーディオ誌で高く評価されていた製品にもかかわらずです。

 試した製品は、解像度は素晴らしく、オーディオ製品としては客観的に良いものと感じたようです。しかし、感情に響かないという印象が強かったようです。

 そのため、長期間(4~5年)、「オーディオ製品の性能と感情面を満たす満足は一致しないのでは?」という疑問を抱き続けました。その後も、似た経験を重ねるばかりでした。

 1994年7月の米国オーディオ誌「Stereophile」に、ザウアー氏は三極管の真空管アンプと高感度スピーカーの組み合わせについて寄稿しました。この組み合わせは、古いオーディオテクノロジーの延長線上にあるものです。ハイエンド機器に比べて測定値はひどいものでしたが、再生音はザウアー氏を大いに惹きつけるものでした。

 「オーディオの進歩は、どこか間違った方向に?」測定技術を含め、レポート執筆時も最終結論には到達しない遠大な疑問を持つようになったとのことでした。

 また、それを(内心?)知っているオーディオマニアも少なからず存在するようです。アンティークオーディオ、ビンテージオーディオ、真空管アンプや古いスピーカーの愛好家は少なからず当時も存在していました。ザウアー氏は、彼らに最新のハイエンド機器を薦めても、見向きもされないことも知っていました。

ドイツの心理学者、アッカーマン博士のブラインドテストについて

 アッカーマン博士は、ドイツの当時37歳の心理学者でした。アッカーマン博士は、音楽とオーディオが好きで、長年アンプやスピーカーを自作していたそうです。当時のシステムには、自作真空管プリアンプ、自作のシングル 3極管パワーアンプ (出力は、チャンネル当たり1本の2A3から2W)。そして調整を加えたクリプシュホーンという組み合わせです。なかなかのマニアですね。

フランクフルト音楽・舞台芸術大学でのブラインドテスト

 アッカーマン博士は、心理学者の側面から53名を対象に、ブラインドテストを行いました。心理学的アプローチであるため、よくあるオーディオメーカーや音響工学のテストとは手法が異なります。

 ザウアー氏によると、53名はサンプル量として充分であり、実験の細部もバイアスがかからないようにかなり工夫や配慮されているとのことでした。レポートにはその具体的内容も記載されています。

 実験テーマは「再生された音楽の心理面に与えた影響を分析」です。

テストに使用された3つのオーディオ・システム

 古いテクノロジーのものから当時の最新技術のものへ2段階で変化させていく組み合わせですが、実験の再生はランダムでした。スピーカーは共通したものを使用しています。

システム1「アナログシステム」

アナログ盤プレーヤー → 真空管アンプ → 共通スピーカー

システム2「中間システム」

CDプレーヤー → 真空管アンプ → 共通スピーカー

システム3「ハイエンドシステム」

CDプレーヤー → ハイエンド半導体アンプ → 共通スピーカー

ブラインドテストの実験結果

オーディオのブラインドテスト結果グラフ_ハイエンドはダメ?

 テスト結果を、当サイトでは見やすいようにグラフにしました。中間システムが記されていませんが、これは一貫して「アナログシステム」と「ハイエンドシステム」の中間であったとのことで、見やすくするため省略しています。

 なお、単位のパーセンテージは、実験前(平常時)からの変化の比率です。つまり、100%が変化なしで、それより上がったか下がったか、という見方をして下さい。

テスト結果を文章で表現すると

 すべてにおいて、一定の方向性の結果が出ていると思います。

 アナログシステムは、ハイエンドシステムに比べて

「興奮が収まり」
「神経質でなくなり」
「リラクゼーションの必要度が下がり」
「集中力が高まり」
「リラックス度が高まり」
「各ジャンルでこの音楽が好きと答え」
「歌ったり体を動かし」
「音楽についてより考え」
「幸福感が増した」

という顕著な結果であったようです。

アッカーマン博士の結論

 レポートには、アッカーマン博士の心理学的解釈も詳しく解説されています。そこは省略して結論を引用すると、

アッカーマン博士の研究による結論は、オーディオ業界の一般的な推進力は、ユーザーの感情的なニーズと相反する可能性があるということです。

ザウアー氏のレポートより

という内容でした。

ザウアー氏の結論

 少し意訳しきれていませんが、以下に引用します。

遠大な結論「オーディオ機器の再生音に対する感情的な反応は、意識された知覚とは無関係であるため、批判的なリスナーから説明されたとしても判別はできません」。

ザウアー氏のレポートより

 レポートは、この後、同じような問題意識を持った、他の評論家や読者投稿を紹介しています。

具体的な問題点の指摘(モノラル再生の実験、マルチマイク収録の課題、音場・ディティール・測定について)

 続いてザウアー氏は、オーディオ機器レビュー記事のよくあるテーマで、いくつかの問題点を指摘しています。

嫌いな用語の1つは、「音場」と「音像」

 音場の広さと音像定位(楽器の位置)について、ザウアー氏はとても否定的です。これらの尺度は、聴き手によって意見や反応が違うという事がほとんどないため、「説明に使う」のに便利である反面、オーディオ機器が与える音楽的な喜びにそこまで寄与しているかというと、そこまでではないだろうというニュアンスの説明をしているようです。

 試聴記事やオーディオ製品の流通現場で、あまりにも過剰に評価軸として使われることを否定しているようです。現実に、この尺度を中心に組み合わせてセットされたシステムを聴くと、ザウアー氏には退屈に聴こえるとのことです。

モノラル再生の実験

 システムから1つのスピーカーを取り外し、できればモノラル音源を使い、片方のスピーカーだけの音を聴く。この実験をザウアー氏は勧めています。

 これを行うと、ハイエンドスピーカーは、貧弱な再生音しか出せないようです。ちゃんと理由があって、理由については、次に引用します。

低音を真ん中で真っ直ぐにミキシングするという通常の方法では、低音ユニットの放射面を2倍にし、利用可能なアンプの出力を2倍にすると、相対的な低音が3dB上昇するように感じられるからです。しかし、音の魅力はさらに後退します。

ザウアー氏のレポートより

 また別の実験として、コメディなどトークものの音源を聴く事を推奨しています。当時のハイエンドシステムはおしなべて、音楽ソースでは音色の忠実度を持つ半面、こうしたトークものだと明瞭度に掛けたようです。強弱や低レベルの解像度に劣るため、声の小さな抑揚、発話の速さやタイミングがうまく再生できないと指摘しています。

音の忠実度とマルチマイク録音について

 マルチマイク録音は、各楽器のそばにマイクを設置するため、ミキシングしてはじめて成立するもので、ミキサーを通さず生で聴くことは不可能と、ザウアー氏は指摘します。

 再生の忠実度にこだわって開発・設計されたハイエンドシステムでは、こうした音源を再生すると、音が明るすぎる傾向となります。これは、スタジオよりもリスニングルームが一般的に狭いため、フラット周波数特性で忠実に再生すると、高域が強調して聴こえるためです。近接マイクが、ライブ会場のように楽器から離れて聴く音よりも、高域が強調されて週力されるためと説明しています。

 こうした課題は、スピーカー設計者には古くから知られているため、一般的なリビングルームを前提に、周波数特性を調整した「Celestion のSLシリーズ」が高い評価を得ていたりします。

 結論的には、さまざまな条件で入力と同じように聴こえるオーディオ機器、特にスピーカーを設計することはほとんど不可能だと指摘しています。そのため「忠実度」にこだわり過ぎた製品には、聴感上の問題があるという指摘になっています。

測定について  

 ザウアー氏は、測定自体には肯定的です。重視すべきとも述べています。問題なのは、オーディオ界が「オーディオ機器を聴きたいかどうかを判断する測定値をまだ見つけていない」という点だと指摘しています。

 ちなみに、ザウアー氏自身の経験では、歪みが少なく、位相応答が適度にフラットなスピーカーは、長時間聴いていても疲れることなく聴きやすいと加えています。

最後に指摘する課題は「ディティール」

 まず、オーディオ評論の国際共通理解として、「ディテールとニュアンスを区別」することを提案しています。

 文脈のない単なる事実は、データに過ぎないのと同様に、ディティールは「解釈のニュアンスを知るための音楽的な文脈」がなければ意味がないと指摘しています。

 よくオーディオマニアがこだわる、音源に入っている音楽以外の「〇〇の音(大抵、マイクの落下など雑音)」という音が聞こえるかどうかなどにこだわるべきでないという指摘です。それによる製品の良し悪しは、音楽を楽しむ製品開発にプラスに働かないという趣旨のようです。

続きは動画でまとめました

 ここまで、本レポートの第一の肝であるブラインドテストについてを中心にまとめました。この続きは、スピーカー編と完結編という2本の動画にまとめました。

 興味のある方は、ぜひご覧いただきたいと思います。またそれらについて、何か感じるところがありましたら、動画でも本ブログでも結構です、是非コメントにてご意見をお聞かせください!

動画の「スピーカー編」を公開しました

 動画の方は、残りの「アンプ編」制作中ですが、「スピーカー編」については公開し、評判も上々のようです。

動画の「完結編」を公開しました

 内容的には「アンプ編」と「全体まとめ」になります。ご意見お待ちしております!

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