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スピーカー評価の革命? Preference rating(PR値)と測定法のスピノラマについて

 以前のKEFのスピーカー研究の記事で軽くご紹介したが、日本ではあまり知られることがなかった(実は15年前から提唱されている)米国の研究成果に基づいたスピーカー評価法「Preference rating」について、紹介してみたい。理論自体はかなり難解で、私自身も十分理解しているとは言えない。そのため、あくまで紹介という事でご容赦いただきたい。

 さらに、目次を見て「読むのが面倒だ」と感じた方には、YouTubeでトークにて説明した動画を公開しているので、そちらを観ていただいても良いだろう。

これまでのスピーカー選びは、客観的数値データがなかった!

 もちろん、性能を示す測定値や能率・最大入力・周波数特性(f特)は存在したが、「聴感の好ましさ」をデータ化した数値はなかったし、多様なスピーカーを評価する方法論すらなかった。

 よって、基本スペックや価格・サイズ以上の聴感を伴う情報は、以下のようなものに限られていた。

  • ショップや知り合い、試聴会でのヒアリング
  • オーディオ誌や、ブログ、口コミ
  • カタログデータや、マニアやオーディオ誌の実測

Preference rating(Preference rating)とは

 Preference ratingは、今から15年前に、ハーマン研究所で、オリーブ博士によって導き出された、好まれるスピーカーを予測する計算方法だ。基本的には10点満点の採点方式で評価する値を導き出している。

※なお、本記事では、「Preference rating」を和訳して、「Preference値」、更に省略して「PR値」(筆者造語)と併せて表記させていただく。

 前段階として研究されてきた測定技術「スピノラマ(SPINORAMA)」という方法によって計測された物理特性データを基にする。そのデータから計算・算出するデータがPR値。具体的には、「スピーカーが100-16kHzに於いてフラットな軸上特性と滑らかな軸外特性、そして伸長した低域を持つ」というのがその肝である。

 計測から算出した数値などのデータが、いつのまにか、人間の主観評価である「好ましさ」に化ける訳だ。逆に言うと、後に説明する「長期的で大規模な過去のブラインドテストの結果」との相関を研究した結果、人間の評価に近いもの(バーチャル人間評価?)を計算する手法を編み出した、ということになる。

 スピノラマについては、カノン5Dさんのサイト「AudiFill」の解説が分かりやすい。

最新スピーカー測定技術「スピノラマ」 -高音質を目指すためのスピーカー技術-評論/情報-AudiFill(オーディフィル)

スピノラマの考え方

 上記のサイトに詳しく解説されているが、要点としては従来の計測が、主にスピーカーの軸上の周波数特性のみを測り、しかもメーカーや測定者によって細かい統一方法がなかったという欠点を補う考え方だ。

 ざっくりいうと、スピーカーの全方位(40ポイント)から計測したデータを基次のような計測方法となる。そこから、直接音のみならず、反射音も推定し、最終的には5つのパラメータにしてグラフ化するという高度な計測と計算となる。

Preference ratingをこう理解した

 基本的な理論は難解なため、あくまでも私の理解の範囲ではという事でまとめると以下のようになる。

  • スピーカーの直接音に加えて、初期反射の周波数特性などが暴れていると「よい音」には感じにくい。
  • 間接音への影響が大きい「軸外特性」も重要視する。
  • 計算式によって、ブラインドテストを含む過去の研究に近い数値を求める。

 最期の「ブラインドテストを含む過去の研究」との関連について補足する。ハーマン研究所は、長年大規模かつ長期的にブラインドテストを実施して、各種スピーカーの主観による評価データを蓄積してきたらしい。この「蓄積された主観データ」と「スピノラマでの計測結果」を結びつける計算法こそが「Preference値」ということになる。

説明しきれないので、参考サイトご紹介

 まずは、私にその概念を教えてくれた「Arc Acousticsさんの日記」

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※上記SNSは近く閉鎖になる(残念)ため、関連ブログのリンクをご紹介する。

 

クオリティの高いオーディオ記事で有名な、「Innocent Keyオーディオ部さんの解説記事」

現代のスピーカ測定指標、スピノラマの妥当性をチェック – Innocent Key

サブウーハーの有無についても

 ここまでの説明を理解して頂けたとすると、PR値は、従来あいまいだったスピーカーの評価を、そのメーカーに拘らず公平に採点評価する「好ましさ」の度合いといえる。

 そして、もう一つの特徴が、ステレオスピーカーセットでは、通常補いきれない重低域にも焦点を当てている点だ。よほどの大型スピーカーか、特に工夫された製品でないと補いにくい重低域をサブウーハーで補うとすると「好ましさ」はどうなるかについても別途評価・採点されている。

スピーカー選びに今すぐ使える

 市販されているスピーカー(すべてのスピーカーではなく一部となるが)のPR値とスピノラマデータは、こちらのサイトで調べることができる。

市販スピーカーのPreference ratingを見られるサイト「Spinorama」
A collection of loudspeakers measurements

 また、こちらのサイト(厳密には共有ファイル)では、調べたスピーカーのPR値の順位や採点をグラフで一覧できる。

市販スピーカーの傾向

 上記のサイトで、現在市販されているスピーカーのPR値について、Arc Acousticsさんの日記では、次のような傾向が指摘されており興味深い。

ランキングはNeumann、Genelecといった軸外を綺麗にコントロールしているモニターラウドスピーカーがトップを独占し、そして設計のレベルはかなり落ちるもののまずまずの特性を有するRevelやKEFのコンシューマーラウドスピーカーが続きます。
一方で、Bowers and Wilkins等のハイエンドと認知されているコンシューマーラウドスピーカーが、その実無頓着と言う他無い劣悪な特性を有している事に、些かのショックを受けられるかも知れません。

https://community.phileweb.com/mypage/entry/4960/20210807/68132/

 人気のB&Wの評価が低いというのもショックながら、ハーマンの企業グループ中核であるJBLも評価は芳しくない。同じハーマンのグループ(今や韓国企業に買収された)の、別ブランドのハイエンドスピーカーは採点が高い。スピーカー作りの考え方が抜本的に違うためであろう。JBLは、ジャズを直接音中心に聴くスピーカーというイメージがあるので、「そうなのかな」と納得してしまう。

最後に、Preference ratingについて

 B&WやJBLの評価が低いことも有って、ネット上で批判的な意見も(当然ながら)散見する。

 筆者は、「これが全て」とか「PR値が低いスピーカーはダメ」というつもりはない。こういう研究があるというのを参考にして欲しいと考えているまでである。

 最後に再び、Arc Acousticsさんの日記を引用しておこう。

若し皆様の中にも安易に良し悪しを語っている方が居られたなら、それが本当に科学的な姿勢であるのか、今一度自問して頂きたいと願う。

https://community.phileweb.com/mypage/4960/

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