YouTubeで公開している関連動画で、特に「真空管アンプ入門」が人気が高いので、購入ガイド的な記事をまとめてみたいと思います。まずは、出力管編です。
出力管は、パワーアンプで最終的にトランスを通じて(OTLすなわちアウトプット・トランスレスを除く)音を出す音質に最も影響の大きいデバイスです。
購入推薦機種も選定(主に入門なので信頼と入手性で日本の製品で)しました。
代表的な真空管別にご紹介(出力管)
300B(もっとも有名な直熱三極出力管)
現在では、真空管アンプの代名詞的に有名な出力管です。入門もありですが、終生使える出力管でもあります。
もともと業務用(映画館の音響用)でしたので民生用の真空管程の流通量がなく、戦後から高度成長期までは、当時のオーディオマニアには高根の花で、「死ぬまでに所有出来たらよいな」と思わせるほどだったそうです。
その後、人気があるためロシアや中国、東欧でも生産されるようになり、米国WEオリジナルの復刻管が製造されたり、日本でも大阪の高槻電子が製造を始めたりで、今では容易に入手できる真空管となりました。
「音質的評価の高い直熱三極管であること」「シングルで7-10Wと手頃な出力が得られること」「現行生産品含めて多くのブランドが入手可能なこと」などが人気の理由だと思います。
製品例:ソフトン Model 8-300B(日本製)
選定理由・スペック
- YouTubeのコメントで、複数の方から推す声が上がり、私も以前から注目。
- 故障した場合、真空管に影響のある固定バイアスながら、回路の工夫でそのリスクを回避。
- 10W(6Ω)×2と、シングルとしては高出力。
- ハイレゾにも対応する広帯域特製(7Hz~50KHz⦅-3dB))。
- 国産アンプとしてはリーズナブル「¥76,000 (税、送料別)」。
- 使用真空管は、12AU7 x 1、 300B x 2。スピーカ出力(4Ω~8Ω、標準6Ω)。
2A3(民生用オーディオ管としての直熱三極管では代表的存在)
300Bが業務用としてのルーツを持つのに対して、2A3は民生用として誕生した真空管。家庭用ハイファイオーディオ機器に使用されてい来た歴史があります。
300B同様、現在でも多くの国で製造され、入手も容易です。300Bより出力が小さいため、スピーカーを選びます(高能率でないとツライ)が、1本あたりの価格が安い(見た目は少し小さいだけなのにかなり価格差があります)ため、プッシュプルやバラシングルなど、1chあたり複数管での駆動も現実的です。
余談ですが、以前に真空管オーディオ情報の草分け的サイト「情熱の真空管」の掲示板で、熟練の主催者がこの管の音を「中年のおばさん」と例えました。一般的回路だと、下膨れ傾向があるため、言い得て妙でしたが、ソブテック1枚プレート(オリジナルは2枚プレート)でロフチンホワイトを組むと、そのイメージを一新します。筆者が「近所の色白の若奥様」と例えたら掲示板参加者にバカ受けしました。
製品例:三栄電波 Allargando2A3ロフチン型無帰還直結アンプ(日本製)
選定理由・スペック
- YouTubeでも推奨した、筆者自作と類似回路。
- 2A3の長所を最大限発揮すると思える直結(ロフチンホワイト)回路。
- 真空管アンプの中でも独特の音色で、付帯音のない澄んだ音は目から鱗になりやすい。
- ※特に、ソブテック(ロシア)の1枚プレート製がその傾向。
- 出力:約3.5W×2 / 周波数特性:20HZ~30KHZ±3dB以内 /出力インピーダンス・4Ω/8Ω 。
- 使用真空管: ECC83(12AX7)×2、2A3×2、整流管GZ34(5AR4)×1
- キット:120,000円(税込)、完成品:162,000円(税込)。
211/845(大型直熱三極管、300Bを上回るスケールの大きさ)
211と845は姉妹管です。見た目も大きければ、845だと300Bの倍くらいの出力が取れます。300Bを経験したマニアがその先に所有する傾向があると思います。直熱三極管特有の倍音(偶数次高調波)が大きくクラシックマニアには特に好まれる傾向があるように思います。
製品例:サンバレーSV-S1628D(日本製)
選定理由・スペック
- キットのみの設定ですが、現実的な価格で買える日本製のアンプです。
- サンバレーの製品は、試聴会には何度もお邪魔しており、確かな品質だと思います。
- 845仕様と211仕様の選択が可能。
- SPインピーダンス:4/8/16Ωから製作時に1系統選択。
- 使用真空管:12AU7×2, 12BH7×2, 845または211×2 ※真空管別売。
- 定格出力: 845:16W+16W以上、211:7.5W+7.5W以上 (8Ω,THD:10%)。
- ¥ 129,000 ~ ¥ 364,700 +税
6L6 / KT66(代表的多極管で入手しやすくブランド豊富)
6L6GCに代表される多極管(ビーム管ですが、本稿ではビーム管、4極管、5極間の違いの説明は割愛)で、自己バイアス回路ならそのまま挿し変え出来る同等管も豊富で、ヨーロッパ製同等管KT66もほぼ同特性です。
これより小ぶり(アンプにした場合出力も小ぶり)な真空管で、6V6や6F6というのもポピュラーですが、本稿ではこれらも仲間として含めます。
全般的に、直熱三極管よりも出力が大きく取り出せます。
ギターアンプに良く使われるため、製造量も多く多くのメーカーが作っているため価格も手ごろで入手も容易(楽器店でも取り扱い)です。ビンテージ管も同等管が多いため、まだ他のオーディオ管ほど高騰していないと思います。
ペア管(類似特性のものを選別したもの)も入手しやすいので、プッシュプルやパラシングルなど、1chに複数の真空管を用いて大出力化も比較的容易です。
製品例:エレキット TU-8200R(日本製)
選定理由・スペック
- 入門にふさわしい組み立てやすいキットでリーズナブル、79,000 円(税込、執筆時価格)。
- 無調整で類似管、同等管に挿し変え可能で「球ころがし」が容易に楽しめる。
- ユーザーにも評判が良い(海外でも話題に)。
- ヘッドホン端子を装備(今時の入門者には重要かも)。
- 定格出力:8W+8W(6L6GC使用、UL結線時)。
- 周波数特性:12Hz~70kHz (-3dB)
- 適合スピーカ:4~16Ω(4~6.3Ω、8~16Ωのレンジをスイッチにより切り替え)
6BQ5/EL84(日本製も多い小型管、プッシュプルなら出力も大)
初段やプリアンプによく使われる小型管(MT管といいます)ですが、こちらは出力管の小型管です。このMT管は、見た目だけでいうとこれまで紹介した大型管(ST管やGT管)よりも頼りなく、性能も低いイメージになりがちです。
しかし、MT管というのは当時の技術革新のなせる業で、大型管の性能を小型化したものなので、技術の歴史からすると、むしろ高性能と考える事ができます。
ちなみに、大型管だから良く光るとか明るいということはなくて、真空管の明るさは管の大きさや形状に比例したりしません。
6BQ5に似た大きさで6BM8というのもあります。こちらは、1本の中にプリ管と出力管が同居している優れもので、2本でステレオセットが組める管です。高度成長期のステレオセットでは重用されたそうです。
以外に音質も良くて、紹介したかったのですが、これといった製品が見当たらず、本稿では割愛します。
製品例:トライオード 「ruby」「 Luminous 84」(日本メーカー)
選定理由・スペック
- 同じトライオードの製品、「Ruby」がシングル3W「Luminous 84」がプッシュプル11Wの出力。
- 大型管よりは、シャーシも小ぶりで、やや軽く設置面積も小さくてすむ。
- 「Ruby」希望小売価格80,000円(税抜)、「Luminous 84」が希望小売価格128,000円(税抜)。※その後値上げしたようなので、価格は上の商品リンクよりご確認ください
- トライオードは、国産真空管アンプでは大手で音質・性能ともに信頼できる。
- 製品がスタイリッシュ。
EL34とKT88(ビンテージ管のオーディオ用多極管では最大クラス)
EL34(日本名6CA7)とKT88は、性格がやや異なりますが、大雑把には似た傾向なので、まとめて説明します。
EL34も6L6系と同様にギターアンプにもよく使われ、現行管も豊富です。価格も性能に対してリーズナブルです。また、松下など国内でも大量生産され、ビンテージ管も比較的豊富です。
一方で、EL34は入手しやすく使いやすい(出力も大きく取れます)真空管であったため、校内放送など拡声器(今でいうPA)でも重用されました。
かたやKT88は、欧州を代表する大型多極管で、米国の同等管では6550というのがあります。当時のオーディオ用真空管としては、最高出力が得られることから、一流メーカーの製品で多く使用された実績があります。
近年になって、より大出力のKT100などが誕生しましたが、真空管全盛期には存在していません。
KT88は、達磨のような独特の形状に趣があり、筆者はいまだに、KT88プッシュプルを生涯の到達点の一つ(いずれ自作したい)と考えています。
製品例:Luxman MQ-88uC (日本製)
選定理由・スペック
- とにかく知名度と信頼性の高いLuxmanブランド。
- Luxmanは、真空管全盛期も製品を手掛けた歴史あり。
- 多くのオーディオショップで取り扱いがあり、入手もメンテナンスも比較的容易。
- 定格出力: 25W+25W(4Ω、8Ω、16Ω)、三極管接続。
- 使用真空管: ECC83S×2本、ECC82×2本、KT88×4本。
- 周波数特性 20Hz〜20kHz(+0、-0.2dB)、10Hz〜100kHz(-3.0dB以内)。
- 希望小売価格(税別):¥390,000。
まとめ
入門者向けに、真空管の種類の解説記事にしたいと考えたのですが、おそらく具体的なアンプが登場しないと実感がないように思えたので、それぞれの推奨機種を選定しました。
入門向けということで、日本製品にしたのですが、実際にはハイエンド方向では海外製や、ローコスト方向で最近信頼性が高まっているという中国製も選択肢としてはあると思います。
信頼や性能では、香港製や台湾製も歴史と伝統があります。
ただし、海外製は入力電圧が日本と異なる場合があるため注意が必要です。具体的には「日本の電圧AC100Vに対応」としつつも、実際には海外に多い110Vや115Vの製品を誤差の範囲ということで販売しているものが多く見受けられます。これを誤差と見るかどうか賛否両論あると思います。
スイッチング電源のACアダプターと違って、多少なりとも電圧が狂うと、設計本来の性能が出ない場合が有り得るのが、一般的な電源トランスでのアナログ電源を使用した真空管アンプの特性です。
最近はやりの、ACアダプター使用のプリアンプ、ヘッドフォンアンプ、ハイブリッドアンプはこの限りではありません。
動画版作成しました
バックはおなじみの空気録音ですが、第九の美味しいところ取り(抜粋・編集)は我ながら上出来です。
今年、2020年3月に動画を公開し始めてようやく100本となり、100本記念の動画として気合を入れて編集したつもりです。ぜひご覧ください。
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