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FX-AUDIO- TUBE-00J UNLIMITEDの研究

 手持ちのラインプリアンプが何故か次々不調となった。もともと自作派なのでメンテしたり別のアンプを作るための部品を集めたりしていたのだけれど、DACからの直結(プリアンプレス)が調子が良くて先送りを繰り返している。

 そんな中で久々にNFJ(ノースフラットジャパン)のショップページを見ていたら、いつも間にか新作のラインアンプが。かつて中国製格安ラインアンプの火付け役となったFX-AUDIO-の「TUBE-01」を高音質パーツでグレードアップした製品だ。限定品の「LIMITED」というのを販売して好評だったため、継続生産の機種を出したという。2020年に発売されていたというので少々浦島太郎状態だが。

 これは少々心が揺らいだ。

なんだかなあと思いながらも、心が惹かれる

 見方を変えれば、やろうとしていたことを先回りしてやってくれているとも考えられる。価格が1万円を切るとなれば、これを先に試すのも悪くはない。そう思い始めたので、この製品の研究を行うことにした。2万円オーバーなら、違う発想をしたに違いない。

発売元のNFJ(ノースフラットジャパン)と製造元のFX-AUDIO-

NFJは日本の会社

 NFJは日本の大阪の会社で、正式名称を株式会社ノースフラットジャパンという。大阪の会社らしくアイデアに秀で「こういうやり方あったらいいね」と思いつつも他にこの分野ではまともな例がなかった業態を確立した。

 中国の超格安ウルトラハイコストパフォーマンスの製品製造力と、日本の歴史的バックボーンを持つ高品質、多ニーズの製品企画力の融合だ。開始したころは1ドル75円くらいの超円高だったこともあり、当時は衝撃的だった。

トライパスという米国のメーカー

 その少し前に、米国のトライパスという会社が、性能の高いD級ステレオ音声アンプの小型チップを開発し話題となった。どちらが本来の目的だったか定かじゃないが、小型のオーディオアンプとして製品化されたほか、パチンコ台の音や音楽を出すような産業用途でもかなり使われたらしい。2000年代初頭だ。

 トライパスは2007年に倒産し消滅したようだが、産業用途もあったため、大量のD級オーディオアンプチップが市場に流出した。これに目を付けた複数の中国メーカーが、それなりに見てくれの良いACアダプターで駆動し、入出力はそれぞれ1系統ながら、巷の入門クラスオーディオアンプ(サンキュッパとかヨンキュッパのプリメインアンプ)と同等または凌駕するような小型アンプを商品化した。

中国製小型格安デジアンが大ヒット

 この小型アンプは、PC時代にデスクトップで小型のスピーカーを鳴らすのにちょうどよい。それなりのCDプレーヤーやipodなどと接続しても本格的な音が出る。ACアダプターをよいものにしたり、改造してさらに本格的な音に進化させるマニアも登場した。

 筆者も当時1台入手したが、中国のECから直接買って、送料込みで3,000円しなかった記憶がある。
 その名残の商品は、今でも多く存在している。(アフィリエイトタグ)

中華デジアンは品質が?

 残念ながら当時の中国製品は、CR類(コンデンサや抵抗など)から端子やつまみ類など、中国製の部品で構成したものは、日本人から見ると信頼性に欠けた。建付けが悪く妙な隙間が空いたり、強度不足の端子やつまみなど機械的な製造制度や強度などの甘さに加えて、コンデンサ類も?なだけに故障が多かったり寿命が短かったりする。オーディオ機器であるにもかかわらず音質を考慮しないコスト優先の部品選定では、音質も頭打ちだ。

NFJは中国に社員を送り込んで製品をカスタマイズ

 改造ができるスキルのあるマニアは、部品を付け替えたりして楽しんでいたが、大部分の人には「安かろう悪かろう」となる。

 NFJは、社員を中国に送り込んで、こうしたメーカーと交渉した。仕入れる代わりに製品の品質を上げてほしいと要請した。いわゆる製品としての品質に加えて、音質的な要望も組み入れた。日本製の電解コンデンサの採用や、検品精度の向上などである。

 NFJは、当初は別のメーカーとその枠組みで製品開発と販売を手掛けたが、異国との商売の難しさで約束したつもりのレベルに満たないこともあり、FX-AUDIO-と手を組むことに帰結したようだ。

真空管ラインアンプというアイデア

 NFJのアイデアなのか、中国メーカーのアイデアマンによるものなのか?心臓部に一体型のチップを使用した小型D級アンプ(一般的にはデジタルアンプといわれるが、実はデジタル技術ではない)に続いて、真空管ラインアンプという製品が次のヒット商品となった。

一度は絶滅危惧種化した真空管アンプ

 真空管オーディオアンプは、70年代に半ば絶雌し一部のマニアが支えるのみだったが、真空管はもとより、オーディオアンプ用キーパーツ(特にトランス類)はその後も大量生産されることはなかった。特に出力トランスなどは部品で入手しようとしても驚くほど高価(中級レベルでも1セット2万円以上)だ。

 スピーカーを駆動する真空管パワーアンプは、どうしても高価となる。加えて重い。

ライン段だけのプリアンプなら簡単

 プリアンプも、以前はアナログ盤再生のためのイコライザーアンプがその機能の中心だったことや、トーンコントロールや電源回路などが組み込まれることで、価格も重さもそれなりであった。

 しかしながら、アナログ盤再生は一部のマニアだけの世界となり、多くのユーザーは、CDプレーヤーやPC、あるいはiPodなどの携帯プレーヤーを繋ぐ時代となり、イコライザアンプは無用の長物化していた。トーンコントロールもマニアの間でも不要派が半分くらいとなり省く選択肢が出来ていたと思う。なんだかんだ省いた逆に「潔い」製品が潜在ニーズとして生じていたのではないだろうか。

 半導体アンプでも、ボリュームとチップ化されたオペアンプ(とその周辺回路)のみでプリアンプが充分成立する時代となっていた。

ハイエンドのプリアンプの中身がオペアンプだけだったという都市伝説

 ゴールドムンド(GOLDMUND)は、スイスを拠点とするハイエンドオーディオ機器メーカーだ。高品質かつ高価格帯の製品を展開している。同社の人気プリアンプについて、バーブラウン(Burr-Brown)のオペアンプが使われていたという都市伝説がある。あるユーザーが天板を外して中身を見たらオーディオ部の主要部品は、1個のオペアンプだったという話だ。

 逆にそこで使われていたというバーブラウンのOPA627というオペアンプは、今でもその話が付いて回り音質が良いといわれている。まあ、それが事実だったとしても、ハイエンド機器はオペアンプ以外の部分でも、高品質なコンデンサーやトランスなどが使用されている。プリアンプの音質は、オペアンプだけでなく、電源など全体的な回路構成や部品選定によって決まる。そのため、がっくりする気持ちは分かるが冷静に考えれば笑い話ではないといえよう。

 もっともゴールドムンドは他にもお騒がせな逸話を持っている。ハイエンドの高価なSACDプレーヤーの中身が2-3万円のパイオニアの基板+機構だったという話だ。

 こちらも先ほど同様、それ以外の部分含めての高音質化なので笑い話にはならない。また、実装基板レベルのOEMは珍しい話でもない。ちなみに、筆者はそのパイオニアのシリーズをいたく気に入り、サブシステム用に2機種所有したことがある。価格を感じさせないかなりの高音質だった。

真空管とオペアンプでラインアンプを

 音に味があるともいわれ、オーディオアンプとしても実は差別化された商品が作りやすい真空管アンプでも、このラインアンプだけなら簡単だ。真空管一段と(無くてもよいが)安心して多くのパワーアンプと繋ぎやすいバッファをオペアンプ一段として基板化すれば、これまた小型プリアンプ(ラインアンプ)が完成する。電源を外部のACアダプターとすれば、なお簡単格安で小型になる訳だ。

 しかも中国は真空管製造国で都合が良い。

真空管は旧東側諸国で現在も製造

 中国、ロシア、スロバキア、チェコは西側諸国で真空管機器が絶滅(ブラウン管や撮像管など特殊なものは除く)しても真空管を継続生産した。

 軍事用特殊機材が西側と違い、半導体に長く置き換わらなかったという事情もあったらしい。旧式機器の保守用などだ。

 一方で、一部のオーディオマニアのみならず楽器アンプ(特にギター)の世界では真空管の人気は衰えず、西側のマニアが大量にあった真空管の在庫を使いつくしビンテージ物が価格高騰した時、旧東側諸国の真空管を流用するというのが定着した。

 東側の真空管は、元は西側のコピーなので、その後の規格変更があっても大規模ではなく、型番を合わせて互換性を明示すれば普通に使え、オーディオショップや楽器店で販売されている(例6N1P→6DJ8)。

大ヒットしたNFJ販売の「FX-AUDIO- TUBE01J」

 機能を絞り、簡単な構成で商品化されたわけだが、構成が簡単なことが音が悪いことになる訳ではない。むしろ逆のことが多い。多くの回路や部品を通過することで、音の鮮度が低下し、これを嫌うマニアも少なくない。

 真空管アンプを自作したことがある人ならわかるが、高価な、高性能なアンプのプリ段はシンプルだ。フラットアンプとかバッファアンプともいわれる部分は、電源を別とすれば僅かな抵抗とコンデンサを接続するのみである。基板化した大量生産品と職人が選りすぐりのパーツや線材で組んだものと比較して、そこまで差が付くとは思えない程度である。

 実際に「FX-AUDIO- TUBE01J」は、当時のDACにありがちなデジタル臭さといわれるとげとげしさをカムフラージュする方向に働いたようだ。現代の電源回路や原則を守った配線なら、昔の真空管アンプに連想するハム音などは無縁で、聴感上はクリアに感じたユーザーも多かったであろう。真空管特有の温かみのある音色に魅せられたユーザーも少なくなかったと考えている。

 2016年に発売された「FX-AUDIO-TUBE-01J」は大ヒットし、後継機や派生機含め今に繋がるロングセラーとなった。ちなみに「J」が付くのがNFJが販売した日本仕様機だ。当然ながら、日本のユーザーに好まれるように、高音質部品や信頼性の高い部品を多用しカスタマイズした製品となっている。

ライバル登場でやや影が薄くなった

 2019年に、「AIYIMA TUBE-T7」というFX-AUDIO-のライバル会社から強敵が発売された。

 この辺の話は、こちらの記事で詳しく触れている。

これから選ぶならT7か?

 ライバルの「AIYIMA TUBE-T7」は、「FX-AUDIO-TUBE-0シリーズ」で使用している真空管6J1よりも一回り大きい(物理的にも電気的にも)6N3という真空管を使用している。こちらはプリ管としてもヨーロッパなどでもその元となった5670というビンテージ管の評価が高い。6J1は互換球含めてオーディオ的な実績は乏しく、むしろ「良くそのような普段使わない真空管を見つけてきたな」とコスパを高める手法に感心した位である。

 一回り大きければ、その分多く電流も流せて、音質に差が出る可能性はあるかもしれない。という風には思っている。しかし、筆者の場合、過去のブログに記載したいきさつで6J1の互換球を集めており特にこの世界で最も評価の高いWEの真空管を所有している。過去資産を活用するのが先だと考えた。とにかく1万円以下で試せるのだから。

 ちなみに6N3の互換球は1万円では入手できないだろう。

今後の展望

 今回の記事は現在進行形となる。FX-AUDIO- TUBE-00J UNLIMITEDを試す決心がついて導入・試聴の際には加筆していきたい。また、ご意見のある方のコメントには耳を傾けていきたいと考えている。

 ちなみに、DC12V(1A程度)が定格だ。筆者はオーディオメーカー製のやや高価なアナログ電源も所有しており、以前から試している第3の電源といわれるGaNのアダプターも所有している。本体があれば、いろいろ試す事ができるであろう。

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