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再生ソフトとしての枠にとどまらない優れた統合音楽ソフトウエア「Roon」の研究

2015年にリリースされた総合オーディオプレーヤーソフトウェア

統合音楽ソフトRoon画面

このところ、世界のオーディオ界のトレンドは、イギリスが中心になっているのでは、と感じる。もちろん日本国内でも大手メーカーからガレージメーカーまで、魅力的な製品開発は行われている。また、米国や欧州(ドイツなど)も同様である。

しかし、イギリスの開発トレンドは、従来の延長線上ではない魅力と可能性を感じさせられる。

タンノイやKEF、B&W、LINN、クォード、モニターオーディオなど、全国のオーディオショップでもおなじみの歴史あるメーカーに加えて、ifiオーディオやメリディアンが特徴ある製品を次々とリリースしている。こうした、これまでの製品群とは一味違う製品開発をしているメーカーが凄く元気だ。

PCオーディオやネットワークオーディオが一般的になり、オーディオプレーヤーソフトもオーディオマニアに重視されるようになって久しい。そうした中でこの分野でも、他と一線を画す製品が現れた。その一つが「Roon」であり、開発するのは「Roon Labs(ルーン・ラボ)」である。

「音質」「操作性」「拡張性」「柔軟性」「安定性」という基本的な評価軸では、どれをとってもすこぶる優秀にできている。さらに、オーディオファンの音楽鑑賞スタイルを一新させる「ローカルの音楽ファイルの整理と情報収集」「ローカルファイルとストリーミングサービスを横断する音源のライブラリ機能」を有しており、後者は今もって他に対抗商品がない。

無料ソフトも多い分野で、生涯ライセンス69.99ドル(本記事執筆時点のレートで74,000円弱)という高価なソフトウエアにもかかわらず、世界中のマニアにユーザーが広がっていることが、その優れた製品としての証であろう。

ざっくりどんな製品?

実はこれは、Roonが高機能すぎて、どの角度から解説を試みてもかなり大変だ。筆者自身も理解するまでにかなり時間がかかった。興味を持つまでに時間がかかったというのがより正確かもしれない。

基礎的な説明は、ネット上にあまたある解説記事に譲るとして、ここでは、ユーザーがどういう状況において本領を発揮するかという方向で、ざっくり説明してみよう。

これまでオーディオユーザーは、アナログ盤やCDといったディスクメディア(=パッケージメディア)で音楽再生を楽しんできた。しかし、LPやCDのラックが部屋を圧迫してくると、聴きたいディスクを探し出すのも結構大変になる。少なくともそうした大変さから、高音質化したデジタルファイルでの音楽再生はユーザーを解放してくれた。

CDをリッピングしたり、アナログ盤もデジタル化して、PCのハードディスク(最近ではSSD)などの記録メディアに収納する人が増えている。これに伴って、そうしたファイルをより高音質で聞こうというのが、PCオーディオやネットワークオーディオだ。

こうなれば、パッケージを買わなくても、ダウンロード販売で音源を入手することができるようになり、音楽ファイルのダウンロードも珍しい行為ではなくなった。

一方ここ数年で、定額聴き放題のストリーミングサービスが高音質低・価格化して、より利便性が高まりつつある。

結果的に、たとえば「今日はビートルズを聴きたい」という場合でも、リッピングした音源ファイルやダウンロードで入手したファイルなどがNASなど手元の機器(ローカル)に格納されているのに加えて、少し前に発売されたリマスター盤(ビートルズの場合リマスタリングも何度も行われており特に複雑)などがストリーミングサービスのメニューにあったりで、大混乱に陥る。どのファイルがどういうアルバムで違いはどうだったか?など、暗記している場合は良いが、うろ覚えのアーティストの場合などは、訳が分からなくなりがちだ。

Roonは、こうした場合の解決策であるのに加え、本人がまだ知らない情報や、アーティストやそのアルバム制作に加わった関係者(作詞家、作曲家、バックミュージシャン、オーケストラ、プロデューサー、レーベルなどなど)についても、ネット上から情報を収集整理して表示してくれる。

ファイルに関連付けて表示される上記の固有名詞は、その表記をクリックすることで、例えばプロデューサーが他のアーティストと制作したアルバムを並べてくれたり(再生可能な範囲内で)する。音楽体験が飛躍的に広がりを持てるようになる訳だ。

一方で、再生機器も柔軟である。そのままPCにUSBDACを接続して、PCオーディオとして聴く事も可能だし、ネットワークプレーヤーを使って、ネットワーク内の(別の部屋にあったりもOK)プレーヤーから再生することも可能。別の高音質化ソフトウエアと組み合わせる方法もあり、理解するのは大変だが、かなり自在に再生環境を構築することが可能となる。

加えて「高音質」または、「高音質化を可能とする別の技術と組み合わせしやすい」という期待も備わった統合音楽再生ソフトだ。

その他の機能

・単体USBDAC再生ソフトとしても使えるが、基本的にはネットワーク再生機能がメインのソフトであるため、コントロールアプリをスマホやタブレットにインストールすれば、リモコン操作が可能。

・ゾーン(出力先)の切替も容易に可能。そのため、家庭内のネットワーク上であれば、リビングのシステムと寝室のシステムというように切り替えて使える。

・最新のハイレゾ規格であるMQAに対応している。Roon自体にMQAコアデコーダー機能があるため、DACにMQAレンダラー機能があれば、MQA再生が可能。もちろんフルデコーダー搭載のDACと組み合わせることもできる。MQA音源ファイルでも、ストリーミング(海外ではTIDALが対応)のMQA音源でも、完全なデコードでMQA再生が可能。※不十分なデコードで音質を判断すべきではないので要注意。

・元の音源ファイルの情報を加工せずにDACに伝送するビットパーフェクトとしての再生方法以外にも、積極的にRoon上で音を加工する機能もかなり高度なものが備わっている。DSPやボリュームコントロール、さらに2017年のバージョンアップからは、マルチチャンネルにも対応した。

国内の評価は

日英のユーザーでは、Roonに対する評価軸にある種の温度差を感じてしまう。単なる印象論かもしれないが、日本のユーザーは「Roon」の音質面に言及することが多いように思う。大してイギリスのユーザーは、「Roon」はITなので、便利さを実現する一方で、デジタルなので音質には影響を与えないと考えるユーザーが多い印象だ。Roonの公式コミュニティでもこうした意見が多い。

想像だが、日本では世界に先駆けてオーディオ専用NASというのが開発・販売されて普及している。音楽ファイルを格納するNASが、かなり高価なオーディオ機器としての価格で売れているということは、ネットワークの上流に位置するデジタル機器(IT)も、音質に影響を与えるという理解が進んでいるのではないか?と思える。加えて、音が良いというLANケーブルやスイッチングハブなども国内では市場化が進んでいる。

そういう土壌のためか、国内ではオーディオ誌、販売店、SNSなどでRoonのレビューを見ても、音質面についても言及しているケースが多いが、内容はバラツキがとても多い。それは、当たり前のことで、オーディオ機器以上に、上流部分だけでも組み合わせや設定、心臓部としてのコアを組み込むPCの能力などバリエーションが膨大にあるため、一定の評価軸は元々困難だからだ。

総じて、機器の組み合わせや設定で(デジタルであっても)音質は大きく評価する可能性が高い。そのため、「こうすれば音質向上した」というようなSNSやブログの記事も多く見つけることができる。「料理のし甲斐のある上質の食材」のような評価であろう。機能面についても、実際に導入した人の大部分が肯定的だ。

なお、Roonの国内での普及に関しては、オーディオライターの逆木一氏が果たしている役割が大きい。早い段階から、海外の事情をよく調べて、オーディオ誌や自身のブログ、そしてイベントなどでの講演で詳しく解説しており大変参考になる。

海外の評価について

まずは、米国のオーディオ誌「stereophile」のサイトでは、リリースして1年以内の早い時期にレビュー記事を掲載している。

大部分は、機能の説明に割いているが、音質面では「ほとんどの音楽再生アプリの音が似ていて違いが判らない」という趣旨の記事であった。

開発国のイギリスのオーディオ誌「Hi-fi News」でも、2018年5月の純正サーバー「Nucleus +」のレビュー記事を掲載しているが、上記とトーンは近く、大部分が機能面の解説。「通常のMac mini ‘コンピューターミュージック’プレーヤーと比較」したところ、明瞭さと低音の品位が向上してコントラストが鮮やかになったという趣旨の評価が書かれている。一方で「これらの変更は非常に微妙」とあり、サーバーに繋いだUSBDACへの供給電源品質の影響と考えているようだ。

イタリアを中心に、欧米のボランティアが広告や企業利益の影響を排して完全ボランティアで中立的レビューを追求するレビューサイト「TNT-audio」では、2019年4月に詳細な試聴テストを行っている。このレポートは、かなり長期間の試行錯誤を経て、Raspberry Pi(格安の教育用シングルボードコンピューター)をRoonエンドポイントとして採用したという。こうした試行錯誤により「その違いは驚くべきもの」となり、「期待通りで色付けのない」パフォーマンスを発揮したという。

さらに、ストリーミング再生の優秀さも強調しており、特にハイレゾストリーミングについては、驚くほど高いレベルと報告している。

海外では、総じて音質は中下流のオーディオ機器の支配力が大きく、デジタル機器領域の影響や色付けは少ないが、という考え方が強い印象だ。

筆者の評価

筆者は、まだPCオーディオという用語ができる前の早い時期からUSBDACやリッピングを導入し、試行錯誤を続けてきた。

主にWindows機器(Macの方が有利だという認識はあったが)で行ってきたが、ある時、Linuxの音に魅せられて、このデジタル領域でも音質への影響は小さくないという認識に至っている。

Roonについても、1年弱だが試行錯誤を行った。最近でも、RoonサーバーからスイッチングハブへのLANケーブルを交換しただけでも大きく音が変わったことを体験している。(同様の報告は、多くのマニアや評論家が指摘している。ケーブル固有のノイズ特性という説もある)

しかし、DACに信号を渡す前の上流は、使用機器もソフトも組み合わせや設定などの変化パラメータが膨大に有り、評価はなかなか難しい問題だと考えている。しかも、Roonの柔軟性は、そうした複雑な前提を内包しているため、「Roonを導入するだけで音質も向上する」とは、とてもいい難い。

利便性や操作性のメリットは特筆できるが、Roonの使いこなしはなかなか大変である。実際に国内、海外ともにRoonにHQプレーヤーという別の再生ソフトを組み合わせて音質向上を達成しているユーザーの報告がかなり目に付く。また、国内では「Diretta」というRoonに組み合わせることが容易なソリューションも評価を高めつつあり、これらを導入するには、ユーザーはさらなる出費を強いられる。

加えて、日本語対応や国内音源への対応が不十分な状態なので、ユーザーによって向き不向きが大きいものだという印象が強い。

※ボランティア(ユーザーの登録制)による日本語対応努力が進められており、技術的なバージョンアップによる改善努力も活発。さらに、国内音源豊富なmora qualitasやAmazon Music HDへのRoon側からの働き掛けも行われており、上記のデメリットが改善される可能性はある。

まとめ

導入しても良いと思えるケース

・クラシック、ジャズ、洋楽など海外音源のジャンルを中心に聴くユーザー

・ストリーミングに音楽鑑賞の中心を移行させたいと考えるユーザー

・MQA再生をより楽しみたいユーザー

・英文表記にあまり抵抗のないユーザー

・Linuxなど、オーディオにIT機器を導入して試行錯誤するスキルのあるユーザー

・次々と、未知の好みの曲やアーティストを発見することに喜びを感じるユーザー

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