旭化成の最新チップを搭載し、MQA再生も対応するS.M.S.L M400 D/Aコンバーターの調査

2020年5月発売の製品です

PCオーディオ、USBDAC

まずは全体像をざっくり説明すると、

中国のオーディオメーカーSMSLが2020年5月に発売したDAC(DAコンバーター)で、製品名が「S.M.L M400」

SMSL(S.M.S.L)は2009年に設立され、深圳に本拠を置くミドルクラスのオーディオ機器を中心としたメーカーで、日本を含め世界各国で販売されている中国のメーカーとしては実績のある企業。

現在、DACのキーパーツとなるDACチップは、ESSテクノロジー(米国、テキサス州)と日本の旭化成エレクトロニクス(東京都、千代田区)の2社によって開発競争が続けられている。

「S.M.L M400」は、AKM(旭化成エレクトロニクス)の最新ハイエンドチップを搭載しており、現段階で世界最高水準の性能が期待されるもの。

その最新チップAK4999ESは、これまで10万円を切る価格帯では同社のライバル社である中国メーカーの製品は発売されていたが、最新ハイレゾ規格「MQA」に対応したものは他になく、その意味で発売が待たれていた機器といえる。

実勢価格と主な仕様

本記事執筆段階での、アマゾンでの「S.M.L M400」の国内価格は86,900円(送料・消費税込)。

入力としては、USB/光ファイバ/同軸/I2S/Bluetoothと、ネットワークオーディオ機能としてのLANが備わっていないが、いわゆるUSBDACとしての使用には問題のない内容となっている。

出力は、ライン(RCA)とバランス ライン(XLR)で、ヘッドフォン出力が備わっていない

電化製品としてみると、ネットワークオーディオやヘッドフォン出力がない事は寂しいが、音質にこだわるマニア目線では、それらは別の機器(ヘッドフォンアンプなど)で補うことが可能なので、省かれているのに違和感はない。むしろ、Bluetooth搭載(高音質コーデック全対応とのこと)は不要と感じる人もいることだろう。

電源は、スイッチング電源内蔵で100-240VのAC電源に対応している。ここもマニア目線では悩みどころで、音質を大きく左右する電源のカスタマイズが難しく「内蔵スイッチング電源」一択に評価が分かれるであろう。

※こうした、オーディオでも小型省電力機器は、ACアダプター方式であればACアダプターをカスタマイズ(たとえばオーディオ用アナログ電源など)することで、アップグレードや音質の変化を楽しめる。

国内の評価を見ると

本記事執筆段階で、アマゾンのレビューを見ると、まだ発売3か月弱でレビュー件数はまだあまり多くない(4件)。

全体評価は、4.2/5であるが、4点や3点を付けた人のマイナス理由は、USBドライバーの不備とRCA出力の性能が落ちるという点をあげている。これに対して、満点評価はファームウエアアップデートで改善できるという主張をしており、ここは意見が対立している。

もう少し冷静に、他の評価を調べてみる必要があるようだ。

他にも、実際に購入してレビューを公表しているブログなどは少ないながら存在し、「解像度の高さについては優秀」という印象が共通している。

ただし、ユーザーの中にはシステム全体のバランスと音の好みより、本機を最終的に手放したという報告(決して音質レベルを否定してはいない)も見られた。

海外での評価 その1

米国の有名なオーディオ機器評価サイト「audiosciencereview.com」は、サイト運営者がカタログ数値とは別に製品を取り寄せて実際に計測したデータを公表しているサイトだ。また、これに基づいて、世界各国の多くのユーザーが掲示板で意見を交換しているため、大変参考になる。

「S.M.L M400」は、さっそく2020年5月31日にその実測データが公表されている。

歪みとノイズを合計したスコアである「SINADの値がものすごく優秀」で、これまで計測した約200種程度の機器の中では、第2位(120.891dBと120.947dB)となっている。ちなみに1位は、Mola Molaの 「Tambaqui DAC」というハイエンド機器(日本価格1,280,000円、税別)2桁違いの高級機。他にも各種計測値は秀逸で、数値性能は申し分ないようだ。

唯一、弱点として「出力インピーダンスがやや低く」「接続するアンプを選ぶ」とある。通常の機器であれば問題ないが、入力インピーダンスの特に低いアンプだと音質劣化を招く可能性があるということだ。

また、計測はXLR出力で行われており、国内評価で問題になっていたRCA出力ではない。

掲示板では、その他にもドライバーやファームウェアについての課題、DACの4つの出力のうち2つしか使用していないという点、Toslink入力用部品やクロック部品の品質が良くないのではといった技術的な問題点についてそれが課題かどうかを含めてかなり活発に協議されている。

一方で、実際に購入したユーザーはそう多くはないが、数名は「素晴らしい」と評価していて、1名が良くないと意見が分かれている。

また、1名は同一メーカーのM500(ESSの最新チップES3038Pro採用)と比較してM400に軍配が上がったと報告している。

上記の、日本初のRCA出力の課題も話にのぼり、検証を求める声が上がったが、運営者がすでに機器を返却しており、結論は出ていない。

総じて、ライバルのTopping D90(日本価格はアマゾンで2020年4月発売のMQA対応機が88,000円、税・送料込み、)の方が、当初は同様に課題があったが、ファームウェア更新で問題は無くなっており、総合数値も僅差(第4位)であるため、良さそうな印象はある。

しかし、このライバル機を両方入手して比較したユーザーは見受けられなかったため、この点は、今後の評価を待ちたい。

海外での評価 その2

発売後日が浅いためか、海外主要サイトでのレビュー記事は見かけられなかった。国内オーディオ誌やそのサイトでも同様である。

他に手掛かりとなりそうなのは、アマゾンと同じく大手の販売サイトの購入者評価である。中国の最大手ECサイトの「Aliexpress」は、20件の評価が付いている。こちらはすべて5/5の満点。アジアに加えて、欧米の購入者も目立つ。

そのうち、採点のみならずコメントを入れているのは3名。「音質は非常に良い」「高速、アメージング」「XLRの方が(おそらくRCAより)音が良い、音が繊細」という評価だった。20件程度ではやや信ぴょう性に欠けるが、否定的なものがないということは参考になる。

その他、内外の数名のユーチューバーが、肯定的動画を公開している。

まとめ

現段階では、技術的な賛否両論があることや音質評価の件数が少ないため、確度の高い判断は難しい。秋以降にライバル機との比較試聴があちこちから報告されるのではないかという推測意見もみられたが、もう少し様子を見るのが妥当かもしれない。

この種の中国製中級機は、国内のショップにおかれて比較試聴できる環境は期待できないため、「買う前に聴く」タイプのユーザーは仲間内に購入者が出ないといつまでも判断できないという難しさが伴う。

買っても良いと思えるケース

・Mシリーズの所有歴があり、このシリーズの音質が気に入っているユーザー

・新しもの好きで、比較的頻繁に買い替えることに抵抗がないユーザー

・ネットワークオーディオ機能は、ラズパイやRoonBridgeなど外部に設けることが現実的なユーザー

ライバル機(D90)が良いケース

・Topping D90は、あまり価格差がなく、ドライバなども安定していると思われる

・D90は、アナログ電源を内蔵しており、内蔵電源に優位性が感じられる

・D90の方が、出力インピーダンスが常識的で、アンプを選ばないと考えられる

追記

DACなどデジタル機器は、技術の進歩が著しい。今回のAK4999にしても、ESSとの開発競争の中から生まれてきたDACチップで、最近ではローム社が2社の市場に割って新規参入しているなど状況の変化も予想される。

そのため、10年20年使い続けようというオーディオ機器購入としてはある意味正しい判断をしようとする場合、今回の機種やライバル機種では物足りなさを感じる。

しかしながら、多くの他の機器よりは「現段階で最新チップ」「MQA対応」という点でリスクは少なく、サブ機として5年程度の使用を前提とするなら大いに魅力的だ。

ひと頃は、ネットワークオーディオ機の方が優れているという風潮があったが、最近では、RoonやDiretta、ラズパイオーディオなどの出現で、ネットワーク機能も進歩に対応できる外出しの選択肢が生まれている。そのため、ネットワークオーディオ機はかなりの高級品でなければ、購入候補として特段の優位性は感じない。

一方で、ファイル形式としてDSDとMQAという一般的なPCMとは異なるハイレゾ規格にどう対峙すべきかの判断も悩ましい。

筆者の個人的見解では、DSDは、いずれ下火になりこの際に見限っても良いのではないかと思っている。今回のM400をめぐる海外サイトの技術論争でも、その対応にドライバーやファームウエアが充分追いついていない、という話題が多く出ていた。個人的経験からしても、DSDの高い規格を納得いく再生ができる環境を得るには結構な代償を伴う。しかし、苦労して環境を整えても、そのようなDSDファイルはダウンロードでかなり高額になっていて、せいぜい雑誌のおまけ以外はあまり所有されていないのではないかと推察する。

一方で、これからはMQAは期待できると感じている。SACDのように結局は廃れるかもしれないが、今後主役になると思っているストリーミングとの相性が良いからだ。

昨今、映画やドラマをレンタルディスクや放送の録画で見る人は急速に減っているようだ。音楽も同様に「聴きたい時に」「追加費用ない定額制で」「高音質で」聴くのが主流になると考えている。リッピングとかNASなどのストレージ整備は時間や手間やコストがかかり、ストリーミングの味を覚えると何だかばからしくなる、というのが個人的経験である。


製品仕様

入力:USB/光ファイバ/同軸/I2S/Bluetooth

出力端子:ライン(RCA)、バランス ライン(XLR)

THD+N:0.000068%(-123dB)、0.000058%(-124dB) (A-WTD)、ダイナミックレンジ: RCA:125dB XLR:131dB、SNR: 131dB

Bluetooth仕様:UAT 24bit/192kHz_1200kbps ( -1200kbps/900kbps/600kbps )/LDAC 24bit/96kHz_990kbps ( -990kbps/660kbps/330kbps )/aptX-HD 24bit/48 kHz_576kbps/aptX 16bit/44.1 kHz_352kbps/SBC 16bit/44.1 kHz_328kbps/AAC 16bit/44.1 kHz_320kbps※Bluetooth ver: BT5.0(UAT・LDAC・APTX・APTX-HD・AAC・SBCに対応)

USB伝送方式: 非同期伝送、対応OS(USB接続):Window 7/8/8.1/10/Mac OSX10.6以降/Linux/Android(otg)/ios(Apple Lightning-USB camera kit)

ビット: USB/I2S: 1bit,16~32bit 光ファイバ/同軸: 1bit,16~24bit

サンプリングレート:USB / I2S: PCM 44.1~768kHz DSD64、DSD128、DSD256、DSD512、光ファイバ/同軸: PCM 44.1~192kHz

消費電力:5W、スタンバイ電力<0.5W

サイズ: 高さ43mm×幅220mm×奥行き215mm

公式サイトより抜粋

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