東京のレコード会社のスタジオで修業し、地元の金融機関に就職したものの勤務先公認で地元ライブのミキシングやスタジオレコーディングのエンジニアとして二足の草鞋を履いたという関井さん。
アンティークオーディオを中心とするオーディオマニアとしても大ベテランで、縁あって北海道旅行の際にスタジオ兼リスニングルーム(ムーン・コールド・スタジオ)を訪問させていただきました。
聴かせていただいたシステム(オーディオ再生系)
システムは2系統
システムは2系統に分かれます。といっても都度繋ぎ変えするもので、本業の録音関係のスタジオ業務でも頻繁に機材を繋ぎ変える関係で、スペース含め簡単にできる設置構成になっています。
純粋に趣味としてオーディオのリスニングを楽しむ際は、一番奥に配置されたタンノイの特大スピーカー「オートグラフ」(スタジオ業務のラージモニターとしても活用)を真空管の300Bシングルで聴いているとのことです。その際のプリは、マッキントッシュのC-20ということでした。
この日は、もう一方の業務用スタジオモニターの構成で聴かせていただきました。スピーカーは上記のラージモニターに加え、ミドルモニターがJBL4425(ウーハーはアルティックに変更)、そしてデスクトップ大のニアフィールドモニターが、レイオーディオのM10(凄いスピーカーでした)という構成です。
パワーアンプは、クラウンの業務用アンプで、アナログ調整卓(ステューダーのミキサー)がプリアンプの働きをします。
興味深い関井さんのプロフィールとスタジオについて
勤務先公認の二足の草鞋
シンガーソングライターの小椋佳さんは、当時の第一勧銀(現在のみずほ銀行)の幹部社員を務めながらシンガーソングライターとして数々の大ヒット曲を連発されました。世代は違いますが、同時代にサラリーマン生活を経験した筆者には憧れの存在です。
今回訪問させていただいた関井さんも、大学卒業後に金融機関の幹部社員として勤めながら、録音やPAのエンジニアとして勤務先公認の活動をされたそうです(定年後スタジオ業務に専念)。
経歴を聞いて「小椋佳みたいですね」と尋ねたところ「札幌の小椋佳とよくいわれました」とのことでした。
札幌は音楽5大都市の一角
筆者が仕事で音楽業界とかかわっていた時に、幾度となく聞かされたのは、日本の音楽業界における5大都市の話です。
全国5大都市ツアーという括りがあって、北から札幌、東京、名古屋、大阪、福岡がそれに相当します。ブレイクしたアーティストや一流ミュージシャンの証としてこの5大都市でのライブを成功させる必要があります。
さらには会場規模も大きい方から「ドームツアー」「アリーナツアー」「ホールツアー」(ブレイク前のライブハウスツアーもあったかも)となります。
したがって札幌の音楽関連のエンジニアは、他の地方都市の地域密着PA会社などとはレベルが違い、関井さんも他にあまりいない存在として、サラリーマン時代もしばしばお呼びがかかったそうです。
スタジオは自宅の一角に内装手作りで
スタジオの内装は、スタジオとしてもリスニングルームとしても納得できるように、壁材は大量に仕入れた木材から選別して、とにかく響きに拘って作られたとのことです。
業務用の音とオーディオリスニングとしての二種類の音を聴かせていただく
二種類の音とは
関井さんの解説と、筆者の頭の中の知識はほぼ一致しました。業務用のスタジオの音というのは、別のいい方をすると「粗探しをするための音」で、情報量が最大要素となり通常マスタリング作業で市販音源では削られる「不快な音、余計な音」も含めて分析的に聴ける音でなくてはなりません。
一方のオーディオリスニングの音は、「心地よく聴ける」「聴き疲れがしない」という要素が重要となります。
関井さんの具体的な解説
より具体的に解説していただきました。
- 音のバランス → どちらも重要
- 音色 → プロの音は無色、オーディオは色付けされた音
- 情報量 → プロは隅々まで再現、オーディオは気持ち良く聴ける範囲
※今回訪問した目的の一つは「ケーブル談義」で、「プロと同等の情報量のあるオーディオケーブルがあった」という内容でしたが、詳しくは続編でまとめる予定です。
プロが使用するケーブル
スタジオやPAで使用されるケーブルは、長いケーブル(ホールなどでは何十メートルがザラとか)が必要なため3極のバランスケーブル(平衡)が多用されます。一般のオーディオシステムの場合はアンバランス(不平衡)で、その部分はやや違いがあります。
国内では、ライブがカナレでスタジオがモガミ、というのが業務用ケーブルの定番で、海外は米国のベルデンがスタンダードという話を良く聞きます。
関井さんによると、ライブのカナレは今でもそうで、スタジオについてはレイオーディオのケーブルがすでにワールドワイドのスタンダードになっているということでした。関井さんのムーン・コールド・スタジオ(所在地が月寒という地名から名付けたようです)も、仕事で聴く場合はレイオーディオのケーブルとのことでした。
実際の試聴は
まずはプロの音。ジャズのトロンボーン、フルートのパートなどがわかりやすいです。オンマイク収録の音源でもあり、息遣いや、勘に空気が流れる音(気配?)、サックスのリードの震える音などが明瞭に伝わってきます。シンバルも明瞭そのもの。
ピアノソロはさらにわかりやすいです。響きが立ち上がりから立下りまで明瞭で、複数の弦が共振しているのもハッキリと聴こえます。
「これだけ明瞭だと仕事にはよいけど、聴き疲れするんだよね(関井さん談)」。そりゃあそうでしょう。
ケーブルをオーディオ用(上記の情報量の多いもの)に変更したところ、ピアノの響きはやや厚みを増して、すべてに優しさを感じます。これなら聴き疲れしないと納得できました。
小型ニアフィールドモニターが驚き(?)の低音たっぷりで
デスクトップサイズのレイオーディオM10もJBL4425から繋ぎ変えて聴かせていただきました。大抵の方は驚くと思います。関井さんの解説も同じで「ラージモニターと変わらない音」、すなわち低音の量感も充分な再生音を聴かせてくれました。
正直、ブラインドだとどちらがニアフィールドモニターか区別できる自信はありません。
よくオーディオ誌のレビューで、小口径ウーハーの製品で「大きさからは信じられない豊かな低音」などと説明される製品がありますね。現代の技術レベルでは、珍しくないようですが、その現象をさらに強調したような、低音意外にもバランスや明瞭度含め高次元の物でした。
聞くと、1本44万円でステレオなら88万円という、ハイエンド寄りのスピーカーというものです。
札幌オーディオ同好会の仲間たち
ベテランのオーディオマニアでもある関井久夫さんは、関井さんをご紹介いただいた植木ラボ代表の植木守さんと同じく、「札幌オーディオ同好会」というオーディオマニアの同好会に参加されています。
この会など(他にも関井さんが関わる「札幌ジャズオーディオ鑑賞会」も)の人脈で、多くのオーディオマニアが出入りして、耳を磨いたり、自作や所有のケーブルなどを持ち込んで試聴したりしています。
植木ラボも、ここでの試聴や集まるマニアの声からひたすら改良を進め、かなりの自信が付く段階で販売を開始(この改良を5年以上継続とのこと)したといういきさつでした。
続編で「関井さんの機材詳細編」「植木ラボとの関わり編」を執筆予定
国内のアナログ音源を扱えるレコーディングエンジニアは、年々貴重になっています。アナログ全盛期のエンジニアが高齢化で大部分が引退されたためです。
関井さんも、今では貴重な現役として東京からも結構仕事の依頼がくるそうです。アナログのノウハウに乏しい状態で仕上げたものと、出来上がりがあまりにも違うので、依頼側も一度味を占めるとリピーターになるわけです。
とはいえ、関井さんご自身も高齢(訪問時に70代後半)となり、今後ご引退のご予定だそうです。
機材をどうするか含めて、続編を執筆する予定です。
植木ラボが休業した件について
2023年4月末より以前のブログやYouTubeで紹介した、高次元のケーブルメーカー「植木ラボ(ウエキ研究所)」がご本人植木守氏の体調面の関係で受注を休止されました。
実は今回の北海道行きも、植木ラボを訪ねる予定でしたが、そういう事でかなわず、かわりに植木さんから、関井さん(植木さんはオーディオの師匠とされています)をご紹介いただき、訪問、試聴ができた訳です。
植木ラボの続報も、随時公開していく予定です。
追記、関井スタジオ訪問記の続編を公開しました。
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