別世界のオーディオケーブル植木ラボの研究

 参加しているFacebookのオーディオグループ(オーディオマニア)でたまたま知った植木ラボ。札幌のマニアがオーディオケーブルの研究を重ね、会社を立ち上げて販売を行うに至ったいわばガレージメーカーだ。

 こういう個人やガレージメーカーでオーディオケーブルを製造販売している人は珍しくない。ヤフオクなどでも良く見かける。過去にSNSなどいろいろなきっかけで知り合った方からケーブルを購入することも度々経験している。

 中には「?」なことも有ったが、個人や小規模の製作物は概ねコスパに優れ、それなりの満足や失敗しても「勉強になった」と思えるレベルのことが多かったと感じている。

 しかし、今回は今までと一味違う体験となったようだ。

先行して植木ケーブルについて動画にまとめた

続編の空気録音編も動画公開している。

画像クリックで動画再生>>

アンソニー氏も主張する非商業メディアならではの特権は、ガレージメーカーなども紹介できるという事

 日本のオーディオユーチューバーの草分けであるアンソニー氏(チャンネル名「TourbillonCafe」)が、本記事執筆時の少し前に動画で良いことを言っていた。

 オーディオ誌やそのWEB版など、伝統的な商業メディアでは、実績に乏しいガレージメーカーの情報は扱わない。さらに大人の事情を含めていうなら、広告出稿のないメーカーは扱わないか最小限という縛りが必然的に存在している。

 一方で、そうした商業メディアではないユーチューバーやブロガーなどの特権は、そうした忖度に関係なく良いものを発見したら躊躇なく紹介できるというのが、アンソニー氏の発言趣旨。これは大賛成だ。

 オーディオマニアには、名の知れたメーカー製品しか購入しないとか、さらにアフターサービスの充実したショップを通じてしか購入しないという人は少なからずいる。一方で、良いものであればそれらに拘らないというマニアも多く、これはどちらが正しいという問題ではないと思われる。

というわけで、今回はこの「植木ラボ」のケーブルを製品研究で取り上げる次第だ。

以前から存在は知っていたが

 植木ラボの特徴の一つは、情報公開しながら開発や製造を進めていく点だ。上に紹介したFacebookのオーディオグループで構想や試作段階から内容を投稿している。

 その内容に興味を持ったマニアや、すでに植木ラボの常連になったマニアがディスカッションに参加し、その内の有志が試作品のレンタル試聴に参加する。試聴したマニアは、その感想をFacebookにフィードバック、それに応じて改良や製品化を進めるというやり方だ。

今一つその輪の中には入れなかったが

 筆者もFacebookのオーディオグループは活動領域の一旦なので、自分から話題を投稿することや他のマニアの投稿に関してコメントを入れることは日常茶飯事。しかしながら、植木ラボの投稿に関しては、読むだけ読んでも参加できないでいた。

 それはなぜかというと、植木ラボの製品は決して安くなく、製品自体も凝っていることも有り、既存メーカーの中級位の価格帯のものが多い。また同一カテゴリーで、松竹梅とラインナップしている場合、既存メーカーなら梅から注目するのに躊躇ないが、Facebookのオーディオグループでいきさつを知ったがために松に注目しがちとなる。筆者のレベルには予算オーバーと感じることが常であった。

具体的にサイトで、植木ラボ(植木研究所)製オーディオケーブルの商品ラインナップをみてみよう

 こちらが植木ラボの公式サイトとなる。下の画像をクリックするとリンクしているので、実際に商品ラインナップや開発コンセプトを見て欲しい。

たとえば同軸デジタルケーブルでは

 執筆時現在、公式サイトでラインナップされている同軸デジタルは、10,000円、17,000円、39,000円、52,000円となっている。

 これまで、既存メーカー製でも定価10,000円程度のものを主に使ってきた筆者としては、かろうじてエントリークラスは手が届くが、内容を知ったからにはどうしても上位製品に目が行き、予算的に厳しくなる(多くのマニアは安いと感じるだろうが)。

セミリジッドケーブルは、これまでと違う何かを感じた

 Facebookの投稿は、かなりのインパクトがあった。省略して伝えるのももどかしいので、ご本人の承諾を得て、投稿の全体を画像化して掲載する。

植木ラボのセミリジッドケーブル告知

 「信じられない」「別世界」「ハイエンド」という表現に心を動かされた。一般的なマニアの発言ならオーバーな表現はアリがちだ。しかし、植木氏はこれまでレベルの高いケーブルを作り続けてきた人だ。その方の発言となると違う重みを感じた。

 また、すでに試作品を試聴したマニア(彼らがやらせや誘導による無責任なレビュアーではないことはあ想像に難しくない)からも絶賛されているという信憑性の高さだ。

構造も独創的なセミリジッドケーブル

 さらに目を引いたのが、そのケーブルの特異性だ。シールド部分が銅のパイプになっているという。また、単なる思い付きではなく、既存のハイエンドケーブルメーカーからその構造の高額なケーブルが発売されているという話も加わっている。

 オーディオの自作も手掛ける筆者としては、これまでのように製品化を待って、その価格に悩み進退窮まるという繰り返しをせずとも、自分である程度実験できるのではないかと考え至った。

実際にセミリジッドケーブルでラインケーブルを作ってみた

 作ってみたといっても、これまでのような細かい製作ではなく、既存品のケーブルにこれまた既製品のアダプターを付けただけだ。植木ラボの今後の完成品のような性能は期待できないが、構造的な音質上のメリットについては見極め出来そうだ。何よりすぐに試せる。

まずはケーブル本体

 まずは、計測や業務用で高精度発振器のオリジナル製品を研究開発・製造販売している(株)サイバーシャフトのBNCセミリジッドケーブル。同社公式サイトか、以下の画像クリックでヤフーショッピングの同社の売り場を確認できる。

50ΩBNC セミリジッドケーブル

次にBNC-RCAアダプター

そして、こちらのアダプターを組み合わせて出来上がりだ。

アダプターを変えたら大化け

 (後日追記)下のYouTubeでの動画にある方のアドバイスもあって、BNC-RCAアダプターを安価な中国製から、業務用で日本を代表するメーカーであるカナレの製品に変えて見た。果たしてこれで音は変わるのか?

 中国製と思われる安価な製品は、昔からどこでもあるようなニッケルメッキ。動画に対するアドバイスでは「中国のことだから安くするために素材が鉄だったらオーディオではNGですよ!」という指摘もあった。さすがに鉄だのアルミはないだろうし、持った感じもそうは思えない。念のため磁石を近づけても反応しなかったので、普通に真鍮とかだと考えられた。

 こうした端子に関して、オーディオの世界では電源ケーブル自作時の端子に関する研究はあちこちで盛んに行われている。今では、オーディオメーカーからは、メッキがネオジウムとか18金という高級品も販売されている。さらに拘りマニアは、メッキを落として純銅で使っている人もいるようだ。この場合、経年劣化による酸化が避けられないため、メンテナンスが必要になるデメリットが生じるが、音は良いようだ。

 とにかく、試してみようと、いうわけで構造上内ばね方式という特徴と、金メッキという仕様のカナレを入手した。

※楽天市場以外はカナレ以外の製品も表示されるので要注意。

 結果は、大化けだ。本物の植木ケーブルに少しは近付けたかも知れない。全体に投入前のほんの少しもやっとした部分が明瞭になった。全体的に品位が向上した。もはや自分のオーディオはこれで充分なのでは?と思わせる位で、音楽を聴くのが楽しくて仕方がない。

実験試聴した結果は?

 実際に、単なる素材のケーブルとアダプターを組み合わせただけにもかかわらず、その効果は大きかった。詳しくは動画(解説編と空気録音編)を見て欲しい。

 着実にシステム全体が、ワンランク向上したような音質改善だ。特定の帯域がどうのこうのというより、全体的な向上感だ。

植木ラボの試作品が出来上がった

セミリジッドのRCAラインケーブルと75Ω同軸デジタルケーブルが送られてきた

 そう簡単に作れる構造でもないため、やや日数はかかったが、試作品が植木氏より送られてきた。きちんとシースを被せ、EMCを施しノイズ対策のをしたものという。

 ついでといっては何だが、植木ラボの同軸デジタルケーブルにも興味があったのでリクエストしたところ、同梱して送っていただいた。楽しみが倍に増えたわけだ。

送られてきた植木ケーブルを開封、画像は同梱の同軸デジタルケーブル

試作品の試聴評価は?エージング段階でも、かなり驚きの効果

 ますは、RCAケーブルを自作のケーブルと交換して試聴。エージング中でも、自作品がワンランク向上だったのに対して、さらにワンランク向上した印象を持っている。

プリアンプレスでも良い結果とか

 試作品を送っていただくタイミングで、植木氏から新たな報告があった。このセミリジッドケーブル試作品は、プリアンプレスで好結果だったという。つまり、DACなど上流のライアウトから、プリアンプの変わりにパッシブアッテネーターを使うか、パワーアンプのアッテネーターで音量コントロールするという方法だ。

 一般的に、このプリアンプレスは、間に使用するパッシブアッテネーターの良いものがなかなか入手できない(品数が少なかったり高価だったり)というデメリットがよく報告される。何とか対応した場合、すごく鮮度の高い音となる傾向といわれることが多いように思う。

 その鮮度の高さに満足するユーザーと、その後、良質で気に入ったプリアンプを入れた場合と比較するというのは、よくあるオーディオ体験だ。結果として、好みや環境で、プリアンプ派はとプリアンプレス派に分かれる、あるいは行ったり来たりするというケースが多いのではないだろうか。

 筆者も両方試し、プリアンプが良いものだと、プリアンプレスに加えて音の鮮度がやや後退するものの、音の力強さが加わるメリットの方が大きかったという経験を持つ。

 植木氏の報告から筆者なりに考えると、このセミリジッドケーブルは、音の強さもある程度持っていて結果としてうまくいったという事だろうか?これを試すために、試聴はプリアンプレスから始めている。

セミリジッドケーブルの欠点

 音質面ではなく、物理的取り回しで、このセミリジッドケーブルは弱点がある。何といってもシールドが銅のパイプ状なので、安物の赤白ケーブルのようなコード類と違い、曲げにやや弱いと思えた。ある程度、ゆるくカーブさせて使う必要があるのか?機器の設置状況次第では、工夫しないと使えないという事になりかねないように感じた。

 この点を、植木氏に確認したところ、試作品として製作したものは、銅パイプ状ではないため、いわゆるオーディオケーブル並みの曲げ自由度があるとのことであった。これについての写真も送っていただいた。

植木ラボ「セミリジッドケーブル」被膜を剥いだ部分
試作品に使用したものの皮膜を剥いた部分

 さらに、植木氏の解説によると、

筆者がDIYしたケーブルは、フレキシブルタイプで自由に曲がるものです。
試聴で送ったケーブルも自由に曲がるタイプなのです。
銅パイプのセミリジットケーブルは、本当のパイプで、硬くて曲がりにくいのです。その代わり音質はワンランク上です

植木氏談

とのことだった。

植木ラボ製セミリジッドRCAラインケーブルの音質評価

 先に述べたエージング中の2ランクアップは、エージング後(約4日間できるだけ音楽を流し続けた)も変わることがなかった。

 以下、試聴曲別のインプレッションとなる。

A列車で行こう(デュークエリントン楽団/エリントン・アット・ニューポート1956/44.1k・16bitMQA)

デュークエリントンをRoonで再生

 イントロのピアノソロで、いきなりエリントンのピアノがいつもより遠く感じる。ブラスが加わると、ブラスは近い。マイク位置の関係とか奥行き感をこれまでこの音源で気にする事はなかった。それだけ音源に忠実で情報量が多いということかと思えた。もちろん、演奏全体の音楽的満足度は申し分ない。

鎌倉殿の13人(オリジナルサウンドトラック/48k・24bitMQA)

鎌倉殿の13人サントラをRoonで再生

 いつもよりエコー成分が多く感じた。N響収録時の反響板の音か、マスタリング時に加えたものか不明だが、デュークエリントン同様、これまで漫然と聴いていた音源が録音エンジニアの意図を自然と考えるようになり、それだけ情報量が増えているということを再確認。

その他の楽曲

マーラー交響曲2番第1楽章冒頭(サイモンラトル・ベルリンフィル)

 冒頭30秒の弦楽強奏を聴くだけでシステムの調子がわかるので、いつも試聴に使用している。弦楽器の質感を聴くのがテーマながら、今回はやはりマイク位置が気になった。これまで想像していたより楽器とマイクの距離が近く感じた。

思い出のサンフランシスコ(サンコーストジャズレーベル/詳細不明、44.1k/16bit)

 筆者が最初にケンリックサウンドの空気録音動画をYouTubeで聴いて、空気録音の面白さを知った曲に似たテイスト(そこで使われたものはいまだに不明)の音源。

 普段、普通に聴いてもケンリックサウンドの動画程楽しめない。システムが向上すればこういう音源も楽しく聴けるのかという問題意識でたまに聴く。今回は、ベースの存在感が増して、楽しめる方向に変化した。やはり今まで漫然と聴いていた音源でも、エンジニアの意図などが感じられるほど情報量がバランスよく増えているのであろうと考えさせられた。

ワルツ・フォー・デイビー(ビルエバンストリオ、44.1k・16bit)

 言わずと知れた名盤。冒頭は他の音源同様、エンジニアの意図などに頭を巡らせる。ところが、中盤から、ところどころで、まるで自分が今ビレッジバンガードに居るような錯覚に陥る。これまでの再生では感じることのできなかったリアリティだ。

時をかける少女(原田知世/音楽と私.2017、96k/48bit)

 以前オーディオ誌で、一般マニアのお宅訪問で「ここで聴く原田知世は絶品」という記事を見つけて以来気になって時々聴く。実は関係者と知り合いで(この音源について話しをしたことはないが)、企画意図がある程度わかっている。往年のアイドルにかつてのヒット曲含め、ニューアレンジ(特にこのアルバムは弦楽中心のアコースティックアレンジ)で新たな魅力を再発見しようというコンセプトだと思っている。

 そこそこ楽しく聴けるが「絶品」とまではなかなかならない。弦楽合奏はシステムの実力がモロに出るためだと思っている。今回は、相当楽しく聴けた。

コメント