KT88三結シングル、トランス結合の構想・製作<自作真空管アンプ・レストア>

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宍戸式イントラ反転アンプをレストア

宍戸式送信管アンプ

2003年に一生もののつもりで製作した「8012A宍戸式送信管アンプ」ですが、残念ながらその後(といっても10年以上は無事に稼働)不調になり、長らく放置状態でした。

普通のアンプなら、回路の各所電圧をチェックして配線や部品の不調がないかチェックして、真空管を交換、といった手順でメンテナンスするわけですが、このアンプの真空管は、ソケット式ではないので交換は容易にできません。

完成時は、予備の真空管(レアなビンテージ管なので)も用意して大事にしまい込んだのですが、この管をうかつにさわるとガラスがぽろっとこわれるような代物で、制作中にもいくつか壊したことがあるので、気が進まず、そのまま放置していたわけです。

設計者の宍戸公一氏も、著書の中で「戦後に粗製乱造された真空管」と説明しており、交換や修理に限界を感じてしまいました。そこで、思い切って別の出力管でリニューアルしようと、数年検討していました。

まずは、手元に真空管は有って、いつかは組もうと考えていた300Bのシングルが第一候補に挙がります。固定バイアスでトランス結合なら、元の回路のイントラ(段間トランス)の反転を基に戻せばかなり楽に改造が可能です。しかし、高価なWE復刻管などを使うには、自作の固定バイアスは怖すぎます。

固定バイアスのアンプは、固定バイアス回路が故障した際に暴走して、真空管をダメにするリスクがあり、高価な直熱出力管の場合は自己バイアスが一般的だと思います(リスクを恐れずチャレンジする方やメーカーも見かけますが)。

300Bを自己バイアスで駆動させたい

結構長い間、これを検討しました。

しかし、問題があって、出力管のA電源(フィラメントへの電源供給)は、1回路で2つの出力管に供給しています。これは、このアンプのコンセプトが、真空管アンプ専用の部品をあまり使わない、という方針(単にケチっただけかも?)だったので、電源トランスだけでも3個使用し、フィラメントへの供給は1つの専用トランスを使ったため巻き線が1個しかないことに由来しています。

電源トランスを交換するとか、この際、外部のACアダプターとかスイッチング電源を使うとか、何年もあれこれ悩んできました。

最近になって、傍熱管なら1回路でOKなので、トランス交換や整流回路の必要がなく、最小限の改造でこのアンプがレストアできると思いつきました。考えてみれば、KT88、EL34、6BQ5、6V6などのアンプは経験済ですが、一度も傍熱多極管を出力管として三結(三極管結合)で使うのはやったことがありません。

一度それを経験しておくのも良いかなと思いましたし、その後に300Bに改造しても良いわけなので、まずは、手持ちの真空管があり、三結のシングルでも出力もそこそこ出力の取れるKT88で試してみようと決意しました。

回路を検討した

元の回路や部品、他の方の作例などを参考に、最小限の変更で済むように、回路を検討し、回路図を作成しました。回路図エディタを使うのもものすごく久しぶりで、おそらく10年以上ぶりになります。

KT88イントラ結合無帰還シングル回路図

我ながら、実に変更箇所の少ない回路ができました。出力トランスはタンゴのU-808、イントラはソフトンのRC-20で元のままです。

さてどんな音のアンプになるのでしょうか?

製作後の追記)上記回路で完成後、配線がまずかったことも有り、発振しました。回路図にありませんが、出力管のKT88の5番のグリッドの直近に3kΩの発振止め抵抗を入れて下さい。

組みあがりました

取りあえず、配線が終わりました。

これから、チェックを行います。

1)変更した部分のグランドの導通チェック

2) ヒーター電圧のチェック

3) B電圧のチェック

という段取りで進めて、問題なければ音出しチェックに進みます。

問題続出!

チェックしたところ、上記1)2)は無事OKでしたが、3)で引っかかりました。通電開始直後に思ったより電圧がふらつくなと思った後、暴走が始まりました。

異常に電圧が高くなり、おまけに異音がします。何だか、お湯が沸騰し始めるときのヒュイーンという音がします。20年位自作してきましたが、このような経験も初めてです。どこからなっているのか突き止めるのも大変でした。

結果的に、耳を澄まして聴いたところ、出力トランスの片側から音がすることが分かりました。

リップルフィルターのコンデンサを追加・増量

まず考えたのは、経年劣化で、B電源の平滑コンデンサが容量低下してリップルが充分取り切れなくなっているのではないか?ということです。一般的にここは寿命の短い(使用状況によりますが10年くらいで交換がセオリー)電解コンデンサを使うので、有無を言わさず交換するのがこうしたレストアやメンテナンスの定石です。

しかし、このアンプは、ここを凄く贅沢して、電解コンデンサを使わず、寿命の長い高価なフィルムコンデンサを使用(チョークトランスをはさんで2個)しています。

見た目では劣化も感じられません。とはいえ、見えないところで容量が低下しているかもしれないし、電解コンデンサを足して増量するのは、10年後の交換の必要性は生じますが、音質的にはフィルムと電解コンデンサのミックスは悪くないです。期待できます。フィルムの透き通った感じに電解コンデンサの力強い厚みが加わることが期待できます。

というわけで、電解コンデンサを50μF追加しました。

結果は、少しマシになった程度で、異音は収まりませんでした。

ネットで調べたりSNSで仲間に質問したり

Facebookやツイッターで解決方法を質問してみましたが、思ったような解決策が得られません。結局、今回のレストアの検討段階でもやりとりした、YouTubeで真空管アンプの情報などを公開しているJunichiさんに動画(KT88の解説動画)のコメントで質問したところ、「NFB外しましたか?」と的確なアドバイス!

これ外すのすっかり忘れていました。

さっそく外したところ、異音は収まりました。

暴走については、ダミーロードというスピーカーを接続する代わりにスピーカーのインピーダンスと同じ値の抵抗を繋ぐことで収まりました。アンプ作りの先輩がこれをやっているのを見ていたのですが、測定するわけじゃないし短時間なら大丈夫だろう、といつも省略していたのですが、今頃になって必要性を痛感した次第です。

テスト用のスピーカーで音出し

組み上げ直後のテストは、最悪壊れても良いようなテスト用のスピーカーを使用します。繋いで音出ししたところ、新たな問題発覚です。

モーターボーディングという現象が起こりました。「ブルブルブルブル」というエンジン音のようなノイズが。

これは、真空管アンプ製作のよくあるトラブルシューティング事例なので、ネット上で対策をおさらいします。まず配線の具合による正帰還の発振だろうということで、発振止めとして出力管のグリッド直近に3kΩの抵抗を配置しました。さらに、グリッドの配線を不用意に結束してしまっていたのを改め、これも無事収まりました。

このテスト音出し段階で、聴くに堪えない歪が出たのですが、これは、真空管を交換したら最終的に収まりました。6BM8を未使用品に交換しました。

メインスピーカーにて音出し

すべての問題が修正できたので、メインシステムに繋いで音出しをしました。

6BM8、KT88三結トランス結合シングルアンプ完成

本来、この段階では、エージングが進んでいないのと、自作の場合は自己満足によるブラシーボ全開なので、音質評価は控えるべきです。

ですが、ちょっとこれは今までにない良さを感じます。ある意味素晴らしいです!

出力管から出力管という三極管(この場合3極管結合による3極管動作)のトランス結合は、有名な佐久間アンプ(先日惜しまれながら他界された千葉県館山市のハンバーグレストラン「コンコルド」のマスターでもある佐々木氏の作るアンプ)に通じる世界です。

ビーム管の3結無帰還なんて、さほど珍しくないし、ボチボチだろうと考えていましたが、完全に印象が覆りました。

奥行き感が素晴らしく、チェンネルセパレーションも優秀です。改造が面倒で位に反して、出力管を直流点火したのですが、これが効いたようでSN感も良い感じです。中低域が厚く豊かで、高域もきれいです。

無帰還なので、ダンピングファクターが低めで、スピーカーのインピーダンスカーブの影響を大目に受けるので、自然なイコライジング効果が心地よく聴こえます。回路に3極管動作が3つ入っているので、システムの都合上、プリアンプレスで鳴らしてみたのですが、偶数次歪(人の耳には心地よく聴こえ、アコースティック楽器の倍音に近い印象が強くなる)が多めかつ奇数次歪(嫌な音に聴こえる要素)が少なめで、何を聴いても心地よく聴こえます。

真空管アンプの利点が、とても強く出ているアンプだなと思いました。さらには、KT88は出力もシングルとしては高めなので、力強さも持ち合わせています。

一方で、生音的な良さも感じるのですが、それよりもオーディオ的な音です。生演奏を往年のPAで聴いているような、そんな感じです。

今後聴き込んでいくと、荒も見えて印象も変わるかもしれません。その時は、またご報告します。

動画をYouTubeに公開しました

まずは、製作の顛末を前、後編でまとめました。

前編を公開しました。

<KT88シングルアンプの自作、真空管アンプレストア、古いアンプを改修【前編】>

KT88シングルアンプの自作、真空管アンプレストア、古いアンプを改修【前編】

後編も公開しました。(さまざまなトラブルとの戦いでした)

<【後編】KT88シングルアンプの自作、真空管アンプレストア、古いアンプを改修>

Youtube「【後編】KT88シングルアンプの自作、真空管アンプレストア、古いアンプを改修」

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その後、「管球王国」で紹介された回路を加えて逆起電力対策を行いました

驚くべき変化で、はっきりくっきりした音になりました。

九州の鬼才、町田さんの回路を新さんが紹介したものです。町田さんはカンノアンプに近い方でもありWE(ウエスタンエレクトリック)のノウハウにも詳しいので、そういう方向性かなとも思います!

真空管は手持ちを使っていたので気付かなかったのですが、最近は中国管でも結構なお値段ですね。

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