ステレオサウンド社が季刊で発行している真空管オーディオ専門誌「管球王国」の100号に、実は画期的な回路が紹介されました。
その回路を、最近常用しているKT88(トランス結合、シングル、無帰還)アンプに加えたところ、相当な効果を感じましたので、その報告です。
新忠篤氏と町田和明氏の交流について
新忠篤氏は、有名なオーディオ研究家・評論家・レコードプロデューサーで、季刊「管球王国」や月刊「ラジオ技術」に自作真空管アンプの記事を数多く執筆されています。
もともとは、フィリップス系のレコード会社で実績を上げて役員まで出世された方だそうです。私も以前からよく記事を拝読すると同時に、イベントなどでの講演も何度か聞いたことがあります。
一方の町田和明氏は、知る人ぞ知る真空管アンプ研究者・製作者で、「東の金田、西の町田」といわれるほど高いノウハウを持ち、知る人ぞ知る存在です。金田氏は長年、月刊「MJ無線と実験」に執筆されている金田式DCアンプで知られる大御所ですね。
町田氏は九州在住で、ヨーロッパのマニアに顧われてETFという真空管オーディオのイベントに参加するなどで、むしろ海外での知名度の方が高いといわれる程の存在です。
この両雄は、以前から交流があったのですが、私が町田氏の動画を公開したことがきっかけで、冒頭に書いた記事が誕生したという説があります。
私が以前、福岡県久留米市のハイエンドマニアであるハヤブサさん宅にてミニオフ会に参加した関係で町田さんと近所(太宰府市と久留米市)で交流のあるハヤブサさんが繋いでくれました。
「逆起電力」対策というオーディオの大テーマ
一般的なスピーカーは、磁石でコイルを動作させて音を発生させています。構造的にはマイク(ボーカルやイベントMCなどで使われるダイナミックマイク)と同じです。
見方を変えれば、発電装置でもある訳で、アンプからの電力で音を鳴らすと、同時に発電されて、それがネットワークを通じて他のスピーカーに影響を与えたり、スピーカーケーブルを通じてアンプに電力が戻されて影響を与えるのが「逆起電力」です。
アンプの場合、NFB回路があると逆起電力がもろにオーディオ信号とミックスされるのですが、それが無くても良くない影響があるという事が今回の実験でよく判りました。
町田式逆起電力対策の概略
あまり詳しく記載してしまうと、「管球王国」の営業妨害になりかねないので、簡単に紹介します。
詳細は、管球王国をお買い求めください。。
この記事によると、2つの回路上の対策が示されています。
整流ダイオードと電解コンデンサの追加
出力トランスの1次側、B電源の入口に整流ダイオードを逆向きに入れ、それと並列に電解コンデンサを挿入します。
私の理解では、スピーカーケーブルが繋がる出力トランスに来た逆起電力をこれによってアース(グランド)に逃がし、増幅回路への影響を緩和するというもののようです。
逆起電力は交流なので、整流ダイオードをこの向きにすると、交流の半分がアースに流れると同時に、直流は通さないので、B電源は通しません。
一方で、コンデンサも直流は通さないのですが、交流は残りの半分をアースに流すという仕組みだと理解しました。
出力トランス2次側をフローティング
もう一つの対策は、通常、2次側のスピーカーケーブルへの配線端子のマイナス側は、アースに接続するのですが、この接続を断ち、フローティングさせます。
この辺りになると、町田さんのノウハウで、私には解説できませんが、とにかくそういう方法を取るという事です。
KT88シングルで、さっそく試しました
少し前に、出力管がダメになってほったらかし状態だったアンプを土台に、KT88シングルを組み、気に入って常用しています。
管球王国の記事で新氏が使用したアンプと、このアンプは似た傾向のアンプなので、取りあえず試すことにしました。
久しぶりに秋葉原で買い出し
部品といっても、ダイオードとコンデンサのみなのですが、それを実装するための汎用基板に加えて、今後予定しているプリアンプの部品も必要だったので、気分転換もかねて秋葉原に出かけました。
しばらくぶりだったので、移転したりでなくなった店も多く、ちょっとした浦島太郎状態です。
その他、マルツ(統合されて本店のみになっていました)で汎用基板なども買いました。プリアンプ構想のためにA&Bの抵抗が欲しかったのですが、購入予定のアンディクスおーてぃおは板橋に移転しており、オーディオ専科で購入しました。
こうなったらオーディオ専科が営業されていることは大変貴重です。
撮影は許可されませんでしたが、真空管アンプ自作のパーツが充実していますので、頑張ってほしいです。
汎用(ユニバーサル)基板に組んで取り付け
もともと、このアンプは日曜大工センターでかき集めた部材で組んだシャーシに組んだ自分としては大掛かりなものです。
音はどう変わったか?
さっそく聴いてみました。その結果「管球王国」の記事と同様の効果を感じました。明らかに音質は大きく変化しています。
これまで、逆起電力の濁りをあわせて聴いていたのに対し、濁りが取れて音が透き通ります。付帯音の現象というものです。
これまで、その濁りを一部「味」として鑑賞してきたので、少し寂しいような気もしますが、オーディオ的には間違いなく向上しており、エージングが進めば、より高度な音質を楽しめるように思いました。
そういえば、町田さんの音は、WE(ウエスタンエレクトリック)の技術を数多く導入しているためこの延長線上(少し烏滸がましいですが)にあるように思います。
町田さんの音は、原音再生に近ずく凄い音です!
編集部やオーディオ仲間に感謝
今回の追試において、記事で紛らわしい部分があったので、ステレオサウンド社の編集部に問い合わせを行いました。
わざわざ新先生に連絡して確認して返答いただいたり、お手数をおかけしました。
※記事では「コンデンサを逆向き」とあったのですが、これはダイオードと逆向きという意味で、電解コンデンサの±を逆という事では決してありません。
また、今回のきっかけをくださった久留米のハヤブサさんにも感謝し、早速連絡したところ、次回訪問時には町田さんのシステムを実際に聴きに行きましょう、とお誘いまでいただきました。
一方で、最近交流している静岡県のスーパーマニアGAVANさんも、以前試した別の対策についてその結果なども教えて頂きました。そのケースでは、濁りが取れたと同時に音の力も減少したという事で本採用には至らなかったそうです。
町田和明氏とカンノ製作所との関係について
ついでながら、ネット上の情報が乏しいので、カンノ製作所について今回調べたことがありますので紹介しておきます。
真空管アンプのトランスで、通常の店ではなかなか入手できないながら優秀なトランスを作っている会社というイメージが同社にはありました。
あちこちの買取店などに、同社のカンノアンプについての記事が散りばめられているようです。
どうやら、創業者が好きで、WEのノウハウを相当研究して、そのコア材を同社のトランスに導入したそうです。
ハヤブサさんに尋ねたら、同じ福岡県で、町田氏とカンノさん(町田さんご本人から聞いたところ、親しかったのは創業者のご子息で二代目とのことでした)は、親しいオーディオ仲間であったことに間違いないとのことでした。
どちらも、WEのディープな研究者ということのようです。
解説動画と空気録音による比較試聴
YouTubeで動画も公開しました。
まずは、解説編。
次に、対策の前後で空気録音(マイクでスピーカーからの音を収録)し、比較できる動画も公開しました。
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