珠江デルタの工業地帯仏山市
珠江デルタの中心にして中国第3の都市である広州市のお隣に、仏山(ふっさん)市があります。珠江デルタ一体は中国でも有数の工業地帯で貿易も盛んな地域です。
オーディオもとても盛んで、おそらく今日、世界で最も盛んといっても過言ではないのではないかと思います。
仏山市のオーディオメーカー「Line MagneTic社」
今回訪問させていただいたLine MagneTic社は、本社が広州の更に海側にしてマカオの入口に位置する珠海市にあり、そこではDACなど最新型のオーディオ機器や量産型の機器も開発・製造されているようです。
残念ながらそちらまで足を伸ばすことはできなかったのですが、こちらの仏山工場には当HPにふさわしい手配線の真空管アンプや手巻きのトランス、励磁型(フィールドコイル)スピーカーなどが製造されています。
どこかで見たような、聞いたようなと思われる方もいらっしゃるかと思います。そうです、こちらは当HPとも相互リンクでお世話になっているサンドグラスさんが同社の励磁型スピーカーを日本に輸入取り扱いを行っているWE復刻モデル(レプリカ)で知名度急上昇中の会社であります。
一足先にサンドグラスさんが工場見学記をUPされており、スピーカーの詳細な工程レポートはそちらをご覧ください。
工場を見学させていただきました
仏山の工場は、工場というより工房といった規模で、意外なことにこのような流通センター(問屋街)の一角にあります。
実は工場内の写真撮影は許可いただけませんでした。何でも、ドイツの企業よりまとまった受注の契約がありユニークな製品であるため守秘義務契約があるそうです。
ざっと見るだけはお許しいただいたのですが、真空管パワーアンプに大きなダイヤルのようなものがあり、B電圧を切り替えて音色を変化させるのではなかろうか、と思える製品でした。
バイアスを切り替えていろいろな種類の出力管を使えるという製品は日本にもありますが、もしかしたら通訳の間違いで、そういう仕掛けなのかもしれません。
最近では、日本のガレージメーカーだけではなくヨーロッパの企業もユニークな真空管アンプを売り出そうとしているようで、ますます真空管アンプの人気は世界的な傾向のようです。
という訳で、ここで組まれている代表的な自社ブランドの真空管アンプはこちらです。
300Bのppでモノアンプ構造ですね。
こちらはシングル。
※他にもユニークな製品が数多くラインナップされています。詳しくは同社のホームページを参照して下さい。
試聴させていただきました
そしてそして、工場の一角にある試聴室でお話を伺いつつ、同社の製品で組んだシステムを聴かせていただきました。
お話を聞かせていただいたのは、同社の社長のお兄様という工場長さんとその息子さんの小偉さんです。
そもそもこの会社を立ち上げたきっかけとなったのは、元社長が大学で電子回路を専攻されて、それからかれこれ30年間オーディオ機器の研究をされてきたということでありました。
ヨーロッパから真空管アンプを調達しては、それをコピーしたりして回路やテクニックを学び研究開発するという繰り返しで今日まで来たようです。
中国製の真空管アンプというと、低コストでの製造力と現代的工業デザインによるシャーシで、見た目とコストパフォーマンスに優れた主としてプリント基板の今風な真空管アンプというイメージがあります。
そうした製品には魅力的な製品も多く、日本でも結構な人気となっています。しかしながらプリント基盤の製品というのは、メンテナンスに難があります。
真空管アンプのメリットのひとつは、何十年も使い続けることができることにあり、1930年代や40年代のWEの製品などは丁寧にメンテナンスされたものはアンティークオーディオの製品として、今でも超高額で取引されています。
真空管の寿命がきても、管を差し替えてコンデンサなどの消耗部品は腕に自信のあるマニアや職人なら容易に交換することができます。ただし、それは手配線の古典回路の場合です。
プリント基板やそうした製品にありがちな独創性に富んだ回路の場合、製造した会社でないとメンテできない可能性が高まります。(それでもなんとかしてしまう職人さんは探せば居るかもしれませんが)
同一回路なら、手配線(空中配線)の方がインピーダンスの関係で音が良いというアドバイスを、先人から受けたこともあります。筆者のような自作マニアの場合、改造するという楽しみ方もある訳です。話は飛びましたが、同社の空中配線というのは大いに好感が持てるわけです。
また、WE製品を中心にアンティークオーディオのレプリカに力を入れているというのも、そうした古のノウハウ集積という点で、真空管アンプの世界ではとても有益なことと思えます。
おそらく、ドイツのメーカーもこうした同社の工房型の技術力・製造力に目を付けたのではないでしょうか。
DACやCDプレーヤーも製造
とはいえ、同社では古めかしい機器ばかり作っている訳ではなく、こちらは自社開発の真空管出力のCDプレーヤーです。
珠海の本社工場では、DAC(これはさすがにプリント基板)なども開発しています。
励磁型のスピーカーでWEレプリカのシステムを自社開発しているため、励磁電源やネットワークなどマニアの自作では手に負えないような機器も作られています。
励磁電源も本格的なバルブ型(うらやましい!)から低コスト仕様のスイッチング型まであって、スイッチング電源でもかなりのレベルまで達成しているとのことでした。
筆者が欲しがるとすごく安く注文製造してあげるといわれ、結構心が動きました。(欲しい!)
さらに、自作派に嬉しい事に、自社開発の出力トランスはかなりの自信作(自称世界一)だそうで、コアに銀を使用したすごいものだそうです。
日本でも自作派にはFM(ファインメット)トランスが抜きん出た性能でちょっとしたブームになっていますが、FMもコアは金や銀の特殊合金。自作派向けにトランスなどのパーツを輸出販売してくれないかとお願いしたところ、輸入会社さえあればオファーは検討するとの事でした。
自社開発のトランス類
GIPラボラトリー(山形)さんと競合
WEレプリカの励磁型スピーカーに関しては、日本のGIPラボラトリー(山形)さんと正面から競合する分野なので、同社もそうとう意識されているようでした。
しかしながら、両社は製造コンセプトがまったく違い、販売価格では大きな差があります。
普通なら製品のクオリティは価格通りに、オリジナル>山形のレプリカ>中国のレプリカ、と考えそうですが、同社は「音では山形の製品には決して負けていない自信があります」という力強いお言葉を頂戴しました。
訪問中、オーディオ談義に話が尽きないながらも、試聴室で筆者持込のソースを一通り聴かせていただきました。工房の製品チェック用システムなので、エージングやバランスなどを試聴用にチューニングしたシステムではありません。したがって、全体としてはまとまりのあるすばらしい音という訳ではありません。
しかしながら、製品個々のクオリティは十二分に感じることのできるもので、それぞれ魅力的な製品を導入して使いこなせばものすごいことになるなという印象は強く持ちました。
特に、励磁型スピーカーは通常のオーディオとは一線を画す性能を持った(好き好きや賛否両論はあると思いますが)ものだけに、通常のショップで聴く音やオーディオイベントで聴くのとは異なる次元でした。
実はこの後、チューニングされたしかもオリジナルのWE大型システムを聴く機会があり、さらに度肝を抜かれるのでした。(お次の広州オーディオレポートにて)
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