ネットワークオーディオや、ストリーミングがメインとなりつつある昨今のハイファイ・オーディオ(ピュアオーディオ)界隈で、ようやくマニアが待望した製品が誕生した。オーディオグレードのストリーマーとNASを統合した製品だ。アナログ出力にも対応しているため、これ1台でデジタル領域の大部分を賄えるネットワークプレーヤーともいえる。新ジャンルの製品と見るのが妥当と思えるため、今回はこの製品を掘り下げる。
Soundgenic Plusは、どんな製品なのか?
機能面から見ると
あれができるこれができると並べ立てる前に、頭が混乱しないように従来製品の何を組み合わせた製品なのかをみていこう。本製品は、「今までにない新しい機能を実現した新製品」ではなく「今までバラバラに存在した製品を統合した新製品」であるからだ。
オーディオグレードのNAS(Network Attached Storage)
2000年代初頭に英国のLINNが、オーディオマニアの世界を一変させたDSシリーズと同時に、ピュアオーディオの世界に、NSAというのが組み込まれた。もともと事務用などの汎用機として小規模オフィス用のファイル共有ストレージとして存在していたのがNASだ。これをオーディオに取り入れる一大変革がこの時に起こった。
LINNはそれ以前、ハイエンドオーディオメーカーとして、アナログ盤プレーヤーやCDプレーヤーといったディスク再生機に定評があった。しかし、CDの音質を追求していくうえで、ディスクを回転させながら再生するのに限界を感じ、ディスクの中にあるデータをあらかじめ読み取ってファイルにしておく方法(リッピング)に未来を感じたという。
これにより、リッピングのみならず「ハイレゾ音源ファイル」(主にダウンロード)にも道が拓かれた。
LINNが当初提唱したのは、台湾製の汎用機であるNASだった。しかし、しだいにNASの品質が音質に影響するという事がいわれるようになり、その後、オーディオグレード(オーディオ専用?)NASという新商品ジャンルが誕生した。
IOデータは、このジャンルをライバル社のメルコと共に切り開き引っ張っている国内メーカーの中心プレーヤーだ。「Soundgenic」というブランド自体が、ミドル級オーディオグレードNASのヒット製品であり、本機はそのNASのひとつで、さらにNASに機能を付加した製品という側面を持つ。
デジタルトランスポート
オーディオグレードのNASが登場した後、同時期にオーディオマニアに急速に普及したUSBDACと組み合わせる方法が注目された。USBDACは、本来PCに組み合わせて音楽再生する機器だ。しかし、PCにはノイズが多く、事務作業ならともかくピュアオーディオの機器と接続する場合は、ノイズが音質を低下させるという宿命を持つ。USBDACの製品開発には、このノイズとの戦いが含まれる。
だが一方で、オーディオグレードのNASであれば、もともとハイファイに向けて低ノイズ設計がされているため、PCより遥かに有利となる。NASとUSBDACを直接USBケーブルで繋いで、ハイレゾの最高規格(実用普及レベル)を含む音楽ファイルを再生することができる。
本機は、ストリーマー機能(後ほど詳しく解説)が備わっているため、音楽ファイルのみならず、ネット上のクラウドストリーミング(音楽サブスクなど)をも再生することが可能だ。
※当ブログ運営のオーディオチャンネルでNASのデジタルトランスポート機能を扱った動画(画像クリックで動画再生できる)
ネットワークプレーヤー
LINNのDSシリーズは、もともとLAN(後にwifiも含むLAN全般対応に)を使ったネットワークプレーヤーとして製品化され世界中で大ヒットした。既存のメーカーもそれに対応して「ネットワークプレーヤー」というオーディオ機器ジャンルが成立した。
当初はリッピングやダウンロードでPCやNASに格納した音楽ファイルを再生し、アンプに送りだす(アナログ出力)のがその使い方であった。しかし、LANに繋がっているというのは、通常の場合インターネットにも繋がっている。
ネットワークプレーヤーというのは、ローカル(PCやNASなど手元の=デジタル用語では家庭内とか企業内ともいわれる)の音楽ファイルのみならず、インターネット上の音楽再生(サブスク音楽ストリーミングなど)の音楽も再生できるという製品だ。後述するストリーマーとの違いは、アナログ出力機能(DAC機能)の有無だ。
ちなみに、ネットワーク再生で基礎的なDLNAの3要素「音楽サーバー、コントローラー、レンダラー」でいえば「レンダラー」となる。
※当ブログ運営のオーディオチャンネルでネットワークプレーヤーについて考察した動画(画像クリックで動画再生できる)
ストリーマー(ネットワークブリッジ)
ネットワークプレーヤーからアナログ変換機能(DAC、アナログ出力)を除いたのがストリーマーだ。ネットワークブリッジという呼び方もされる。
なぜ、アナログ出力がない機器が重宝されるかというと、アンプにおけるプリメインアンプと似たような原理となる。高度なオーディオマニアは、一体型のプリメインアンプより機能により機器を独立させたプリアンプとパワーアンプ(メインアンプ)を好む。
高度に音質を調整していくと、機器の音質上の相性をコントロールしたり、電源を独立させることによる性能向上にメリットを感じることが多い。その他にも、この音質追及の理由で、機器を分離独立させるメソッドはオーディオにおいて一般的だ。デジタル領域にもそれが多々指摘される状況だと思える。
CDリッピングマシン
CDリッピングは、通常PCを使用する。PCにドライブ(CDが読み取れるDVDドライブやフルーレイドライブ)を接続(以前は標準でPCに内蔵されていた)して、対応した音楽再生アプリなどを使用する方法だ。
しかし以前から、PCを使わない専用機もしくはその機能を持ったCDプレーヤーやNASが存在し一定の需要を満たしてきた。本機も前身がオーディオ専用NASであるため、その機能を持つ。一般的なUSB外付け光学ドライブを接続して、CDのリッピングが可能だ。専用アプリも内蔵され、インターネット上でCDの詳細をファイルに記録できる機能など、今時求められる機能にも対応している。
Bluetooth音楽レシーバー
付属しているBluetooth USBアダプタを取り付けることで、Bluetooth受信機能を追加することができる。現状はハイレゾ対応したコーデックでなないようだ。公式サイトの製品マニュアルページは、以下の記載となっている。
Bluetooth® の対応コーデック
https://www.iodata.jp/lib/manual/hdl-rah/index.html#btarcvr_pairing
SBC、AAC
Soundgenic Plusの具体的な製品仕様
仕様一覧
項目 | 内容 |
型番 | HDL-RAH2S |
発売日 | 2023年11月17日 |
価格 | オープン価格 |
外形寸法 | 168(W)×134(D)×43(H)mm |
質量 | 約690g(SSDモデル)、約1.2kg(HDDモデル) |
CPU | Realtek RTD1296 |
メモリ | 2GB DDR4 |
ストレージ | 1TBおよび2TB、HDDおよびSSDのラインナップ より選択 |
OS | Linux |
ネットワーク | 1000BASE-T/100BASE-TX/10BASE-T |
LANコネクター | RJ-45×1(Auto-MDI/MDI-X 対応) |
Bluetooth | 付属のBluetooth USBアダプタで追加可能 |
対応コーデック | SBC、AAC |
音声出力 | RCA出力、USB出力 |
入力端子 | USB入力 |
添付品 | USBオーディオケーブル、Bluetooth®USBアダプター ACアダプター、電源コード(PSE適合品)、 LANケーブル、ケーブルフック、取扱説明書 |
リモコン | 付属 |
メディアサーバー対応ファイル形式(拡張子) | wav、mp3、wma、m4a、m4b、ogg、flac、aac、 mp2、ac3、mpa、aif、aiff、dff、dsf |
USB-DAC出力形式(サンプリングレート) | PCM形式(44.1kHz、48kHz、88.2kHz、96kHz、 176.4kHz、192kHz、352.8kHz、384kHz) ※wav、aiffのみ705.6kHz※、768kHz DSD形式(DoP)(2.8MHz、5.6MHz、11.2MHz) DSD形式(DirectDSD)(2.8MHz、5.6MHz 、11.2MHz、22.5MHz) |
PCM対応 | 最大384kHz/32bit(USB出力) |
CDリッピング | 対応(WAV、FLAC、AAC形式で取り込み可能) |
音楽配信サービス | Spotify、Amazon Music HD、AWAなど |
その他機能 | DLNA、AirPlay 2、Spotify Connect、 Internet Radio |
Wi-Fiに対応していない件について
注意したいのは、無線LAN(Wi-Fi)に対応していない点だ。同じく無線を使用するBluetoothも付属の外付けUSBアダプターを使用する。オーディオ機器に無線回路を入れると排除すべき電磁ノイズが増えるため、オーディオマニア的にはこれは歓迎だ。
しかし、今時の機器としては盲点となりやすいため注意したい。もちろん別途外部アダプターをLAN端子に接続して無線LANを使うというような(こうした機器は意外に割高で不安定なため推奨しない)道はある。
一方で、スマホなどをリモコン代わりのコントローラーをして使用するため、リスニング環境にWi-Fiは必要となる。
MQAデコーダーは搭載していないが、MQA対応DACへ送りだせば再生可能
あくまでも、本機に内蔵されているDACは簡易的なもののようだ(現時点では情報不足でこれは推測)。それもあり、MQAデコーダもレンダラーも内蔵していないため、単体でMQA再生はできない。再生(音出し自体)はできるが、通常のPCM再生となる。
MQA再生のみならず、本格的な音質追及は、別のDAC搭載機器と接続する場合が前提となるであろう。
AmazonHD(Amazon Music Unlimited)の再生は、iOS/iPad OS版 のみでAndroidは非対応
本記事執筆時現在、公式サイトによるとストリーミングの操作は、iphoneかipadといったapple機器のみの対応のようだ。「Android版は非対応」と明記されている。ワールドワイドではAndroidユーザーの方が圧倒的に多いため、これは大変残念だ。
対応するストリーミングサービスはAmazonとSpotify、Qobuz
公式サイトにはAmazonとSpotifyの2つに対応と記載されているが、その後、(執筆時現在)近く日本でサービス開始予定のフランスのQobuzも対応サービスに加わったとアナウンスされている。TIDALや他の選択肢がないというのも、今時のストリーマー・ネットワークプレーヤーとしては物足りない。
Amazonのハイレゾに対応していれば、質・量そしてコスト面で他のサービスを導入する必然性はないだろうと割り切れれば良い。一方で何かの理由で他のサービスに愛着や関心のあるユーザーは導入において注意したい点である。
課題は概ねソフトウエア上のことなのでバージョンアップに期待
いくつか残念な点も散見された。ただし、音質上問題のあるWi-Fiを除けば、それらの課題はソフトウエアやライセンス上の問題なので、今後改善も期待できる。革新的な良さもあるため、それらを理解したうえで導入したいと思えるユーザーには、とても魅力的な製品ではないだろうか。
Soundgenic Plusの入出力機能・端子
・電源端子:DC12vの付属のACアダプターを外付けする。
・有線LAN端子:LANケーブルを接続し、ルーターやスイッチングハブと繋ぎネットワークを有効に。
・USB2.0/3.0(タイプA):2.0が1口、3.0が1口の合計2つの端子がある。USBDACや外付けUSB光学ドライブ、外付けストレージ(HDDなど)、DAPなどと接続可能。
・アナログ(RCA)出力:一般的なRCA端子(ピンジャック)はない。USB2.0端子に専用ケーブルを接続しRCAに変換するという特殊な仕様となっている。
端子は4口のみ
上記のように、入出力端子は電源含めて4口しかない。シンプルだが、USB端子が多くの機器に対応するのと、LANに接続すれば、それを介して様々な機器と繋がるため、バリエーションは少なくない。
また、Bluetooth USBアダプタを使用した場合、取扱説明書には「Bluetooth® 経由での音声出力にはDAC が必要です。」と記載されている。外付けのUSBDACが必要となるようだ。
Soundgenic Plusは、Dirertta Hostにも対応した点が新しい
IOデータのNASは、以前からDirertta Host機能をもつ製品はあった。しかし、Soundgenic Plusは、ストリーマーとしての機能があるため、この点ではDirerttaを使いたいというユーザーには核心的だ。Direrttaはもともと、WindowsPCを前提に(その後Macにも対応)開発された伝送方式である。一方でオーディオ再生エンジンに汎用PCは使いたくないという拘りのオーディオマニアも少なからず存在(筆者もその一人)した。
ストリーマー機能を持つSoundgenic Plusは、ファイル再生のみならずクラウドストリーミング再生(サブスクの音楽ストリーミングサービスなど)でもDirettaによる送り出しを可能とした点が革新的だ。
Direttaについては、過去記事を参照してほしい(Targetについても解説)。
Soundgenic Plusのネット上の評価
ネット上での評判は、発売後間もないため、まだ少ない。今後ユーザーの増加により情報が増えていくと考えられるため、順次本記事は加筆していきたい。
philewebでは、プロモーション記事(広告)で園田洋世氏がレビュー記事を寄稿している。広告であるため信憑性は「?」だが、情報が少ないため、以下に紹介しておく。
価格コムでのユーザーレビューは、執筆時現在1件のみ。デザイン・安定性・静音性・サイズの評価は5点満点だが、音質面でAmazonのハイレゾが、ローカルファイルの再生よりキレや軽快性に欠けるという評価をしている。
Amazonでのユーザーによる製品評価は、執筆時1件のみ。5点満点だが、内容は参考にならず割愛する。
Amazon Music HD(Amazon Music Unlimited)も快適
ハイレゾストリーミング再生で、Amazon Music HD(Amazon Music Unlimited)は、対応するメーカーが少ない(対応したいメーカーは多いがAmazon側が閉鎖的らしく)ため、これに対応しているというのは大変貴重だ。これがあるからこそ購入およびその検討を使用というユーザーも多いはずだ。
Amazon Music HDの再生アプリの操作性についてのユーザーからの情報
これに関してFacebookのオーディオグループにて、実際に本機を所有し、他の気にも知見の深いYong Joonさんから生の意見を教えていた。
Amazon利用は他社では DENON マランツのHEOS、BlueSoundがありますが、SoundGenic Plusの方が速いです。サーバー レンダラー(プレーヤー)負荷分散されているからでしょう。
https://www.facebook.com/groups/233899196696841/posts/7273299142756776/?comment_id=7303281906425166&reply_comment_id=7303756109711079¬if_id=1708764972678050¬if_t=group_comment_mention
速いというのは、操作性が良いということだと理解した。この辺りは、従来製品の評判があまり良くなかったため、貴重な情報だ。
DENON・マランツの「HEOS」や、BlueSoundの「NODE」のアルバムアート一覧の表示速度の比較は
さらに、Yong Joonさんから補足の情報をいただいた。多くの人にとって関心ありそうな内容である。
速いとは、例えば Amazon Musicを松田聖子で検索して、アルバムアート一覧の表示速度です。DENONマランツはとても遅いです、比較的古いCPUの性能の関係でしょう。NODEは速めですがアルバムアートが小さすぎで結局文字列みます。SoundGenicPlusはアルバムアート表示が速く、かつタイルアート表示でビジュアル的に優れています。スフォルツアートは持っていませんが、タイルアート表示です。
同じくFacebookより
Yong Joonさんのブログには、Soundgenic Plusに関する情報に加えて、当サイトとも親和性の高いDiretta他、ネットワークオーディオ関連などの多くの興味深い情報が公開されている。
どんな人にSoundgenic Plusは向いているのか?
実質的に中身は音楽再生に特化されたPC(モニターやキーボード・マウス接続をしないためサーバという方が相応しいかも知れない)である。そのため、ソフトウエア上、ハードウエア上の制約が複雑怪奇で、今後のファームウエア・バージョンアップもメーカーに委ねられる。
少し特殊な使用方法を考えているユーザーは、本ページや公式サイトの情報だけでなく、メーカーに問い合わせて確認することを推奨する。
そのうえで、あくまでも当サイトとして検討した範囲での向いているユーザーは次の通りだ。
NASを使用したいユーザーで、現状所有していないか更新したいユーザー
音楽ストリーミングが発達した昨今、NASが必要なのか筆者は疑問を持ち始めている。一般的な楽曲なら音楽ストリーミングでカバーできるであろう。それらのリマスター盤とかベスト盤など、今後発売されるものも順次対応されるため魅力的だ。
そうした一般的な楽曲ではないコレクションが多いというユーザーは、それらはディスクのまま聴き続けることで解決しないだろうか?ファイルでしか所有していない特殊な楽曲が多い場合のみNASは検討対象になると考えている。
ストリーミングは音が悪いと感じているユーザーは、機器やノウハウの実力不足で、それこそ改善していくべきだと考える。
Amazon Music HD(Amazon Music Unlimited)を聴きたいユーザーは別の選択肢も?
もし「Amazon Music HD(Amazon Music Unlimited)」において、既存の機器の操作性などの評判が悪いためという狙いであれば、こちらのストリーマーで充分ではないか?よく検討してほしい。
本命は、Diretta Hostを使いたいユーザーではないだろうか
Direttaを使いたいが、汎用PCは使いたくない。こういう考えはよく理解できる。Direttaは、Diretta Targetをどうするかという問題もある。しかし、Diretta Host機能を内包した完成品のストリーマーは他にないため、この場合は一択という結論になるであろう。
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