オーディオマニアにとって、2020年の旭化成(旭化成エレクトロニクス、延岡市工場)の工場火災は本当に残念だった。
現代のオーディオに必要不可欠ともいえるDAコンバーターのハイエンドDACチップの一つが、これ以降入手困難になった。現行のハイエンドDACは事実上ESSの製品しか搭載できなくなった。オーディオメーカー各社は、旭化成のDACチップ搭載製品をESSのチップに切り替えたり、ディスクリートで自社開発するなどの対応を迫られた。
その後、2022年にようやく製造再開にともなう出荷が再開され、待望の新製品AK4499EXなども供給されるようになった。
ESSも新製品ES9039PROを2022年に発表したが、搭載製品は本記事執筆時の2023年前半にはまだ市販化されていない。そこで「現行ハイエンドチップ」という括りでESS9038PROとAK4499EX搭載のDACを、同一メーカーにて比較してみようというのが本記事の趣旨である。
中国の大手オーディオメーカーToppingについて
話題のチャットGTPに聞いた結果を要約すると以下の通りとなる。
「Toppingは、中国のオーディオメーカーで、主にDAC、ヘッドフォンアンプ、プリアンプ、パワーアンプなどのオーディオ製品を製造している。同社の製品は、ハイコストパフォーマンスで、広く世界のオーディオマニアに知られている。
Toppingは、2010年に設立され、その後、中国国内で急速に成長し、世界的にも知名度を上げた。同社の製品は、オンライン直販モデルとして多くの国で販売されている。」
中国製DACにつういて
中国の工業製品は総じて、同一分野に多くの競合メーカーが乱立する傾向が高い。また、概ねどの工業製品もハイコスパで国際競争力を維持している。一方で、他国製ではなかなかない派生製品も供給されるなど独特の風土がみられる。
その国の強い分野で複数のメーカーがしのぎを削るのは珍しくないが、中国の場合はOEMが複雑に入り組み、性能やデザインが似た製品が大中小複数のメーカーから販売され一見では区別がつきにくい面があったりする。
DACもその一つで、Topping同様に海外でも知名度の高いメーカー(つまり中小を除けば)にはSMSL、Sabaj、Gustard、Loxjieがある。チップや基板の一部は共通している(これによって高いコストパフォーマンスが実現)と思われるが、機能や音質面での味付けなどに各社の個性が生じている。
ネット上の評価では、Toppingの製品は基礎性能の高さに特徴があるという声も聞かれる。
オーディオ製品については、国際的には後発であるため、伝統や蓄積が必要とされる中級以上のスピーカーやアナログアンプ(トランジスタ系)はそこまで話題となる製品は見られない。デジタルアンプ(ICチップ搭載型のD級アンプ)、真空管アンプ、ヘッドフォンアンプ、DAP、DACなどがメインとなっているようだ。
そうした中でベテランオーディオマニアの中でも、DACの評価は比較的高い。ハイコスパといえども「安かろう悪かろう」という傾向が少ないという評価だ。核となるDACチップが欧米や日本製を使用しているということも要因と思われる。
同一メーカーによる比較試聴について
DACの音質は、DACチップのみで決まるわけではない。むしろ電源回路やIV変換回路、基板設計などの合わせ技で決まってくる。そのため、各オーディオメーカーは他社と同じチップであっても、慎重に競合他社に劣らない設計と製造に努めている。
したがってDACチップの評価は簡単なようで難しい。ある程度の傾向を推し量るシンプルな方法として、同一メーカー、初級マニアから入手しうる価格帯(実勢価格に開きはあるが、一方は専用レベルのヘッドフォンアンプなど機能が加わっており、一桁万円台という多少乱暴な分類でご容赦)のもので比較する、というのを今回意図した。
幸い同一メーカー内でそうした製品群を持つToppingの国内正規代理店である(株)
オレメカに協力を依頼したところ、快く応じたいただけた。ということで、製品貸し出しを受けられ大いに感謝する次第だ。
※とはいえ、宣伝費など金品の報酬は発生しておらず、提灯記事ではなく感じたままの評価をしたい。
どんな製品なのか①ESSチップ搭載「Topping・DX7Pro+」
まず先にESSのチップを搭載した「Topping・DX7Pro+」について、どのような製品化紹介したい。基本的なパッケージはDAC+ヘッドフォンアンプだ。入力はUSB、SPDIF(同軸とToslink)、bluetooth、I2s(HDMI)と現状で考えられる実用的な入力をすべてカバーしている。出力もヘッドフォンアンプ出力とプリアンプ出力(音量可変)に加え、RCAライン、XLRバランスと、こちらもフルカバーという使いやすい製品(オールインワン)だ。
残念ながらMQAには対応していない(同社の弟機は対応製品あり)。また、一部の高級機にはみられる外部クロック入力も搭載していない。一方で電源は外部のACアダプターではなく、本体に内蔵しているため、3Pのオーディオグレード電源ケーブルが直接装着できる。
Toppingのお家芸である基礎性能の高さに加え、音質に影響大のIVコンバーターも同社独自の新型を搭載している。
そのほかの仕様については、(株)オレメカのDX7Pro+のページを参照してほしい。
価格は、本記事執筆段階の実勢価格で以下の通りとなっている。ESSの現行ハイエンドチップの基礎性能を知るには最適の製品ではないかと考えている。ヘッドフォン、イアフォン重視のユーザーも魅力的と感じるだろう。
どんな製品なのか②旭化成(AKM)チップ搭載「Topping・E70 VELVET」
先述したAKMの最新ハイエンドDACチップAK4499EXを搭載したというのが最大の特徴となっている。供給されてまだ新しいため世界的にも搭載機は多くない。製品名にあるVELVETは、AKMの製品コンセプトVELVETサウンドからきていると思われる。
搭載したAK4499EXは、デジタル部とアナログ部のチップを分割した2チップ構成とうのが最大の特徴。分離によって従来製品を上回る性能と高音質を達成したという。また、以前はAKMの特徴であったIV変換回路は搭載せず、オーディオメーカーによる音の味付けの余地をあえて残したという。
価格帯は先のDX7Pro+よりワンランク低く、執筆時現在の実勢価格は63,000円(税込み)だ。機能を絞って低価格化したと思われる。I2s入力が省かれヘッドフォンアンプが簡素化されている。また、こちらもMQAには対応していない。
詳しい仕様は、同様に(株)オレメカのE70VELVETのページを参照していただきたい。
比較試聴に使ったシステム
筆者のメインシステム似て試聴を行った。デジタル信号の経路に、何かと課題の多い汎用OSのWindowsを入れず、RoonとDirettaを併用したかなり入念に調整済みのデジタルトランスポートを構成している。通常使用のDACはメリディアン218で、同機のネットワーク機能を使用せず、SPDIFの同軸で入力している。
アンバランスのRCA固定出力から、トランス式アッテネーターを経てパワーアンプへ。パワーアンプは自作のKT88シングル無帰還(町田回路搭載)を使用し、スピーカーは伝説の銘機を言われるLS3/5a(筆者所有の物はスペンドール製)。とにかく最近すこぶる調子が良く、いつ聴いても、事前の予想を上回る満足度が得られる状態だ。
それぞれのDACを試聴した
今回は、純粋にDAC性能を比較試聴するため、普段のシステム構成のDAC部分だけ入れ替えた。同軸によるSPDIF入力で、RCA固定出力だ。
まず「Topping・DX7Pro+」を試聴
繋いで直ぐも試聴したが、念のため数日おいて(その間、出来るだけ電源は入れるようにした)再度試聴した。ジャンルもジャズ、クラシック、ポップスなど多岐にわたり、ローカルの音楽ファイル(ロスレス、ハイレゾ、更にロッシーも)やサブスクのTIDALストリーミングなどを聴き込んだ。
直ぐに判ったのは、さすがに現行でハイエンドDACチップとしては独占的なシェアのあるESSチップ搭載機という高レベルであることだ。
筆者は過去に、ESSチップ搭載DACを3台所有したことがあるし、イベントやオフ会などでハイエンドシステムを含む高度なシステムでの試聴経験がある。その延長線上で、同傾向ながら自宅システムに組み入れると、更にその真価が浮き彫りとなった。
以前所有した旧型やミドルクラスからは、明らかに一皮むけている。測定やメーカー公表のSN値の優秀さはもちろん感覚として充分伝わってくる。またToppingもその能力をきちんと理解してパッケージ化していることも感じられる。
特に、以前からESSの特徴である独自のジッター除去回路に由来するであろう抑えられたジッターに由来すると思える位相の正確さには感心させられた。音源を制作したミキシングやマスタリングエンジニアの意図に沿ったと推し量れる音像が出現した。元の音から奥行きのあるクラシックのオーケストラなどはともかく本来奥行きの少ないポップス系であっても、楽器の厚み、立体感が増しており、飛び出す絵本のようなイメージで聴く事ができた。システムが高度になればなるほど、そのうま味は増殖するであろうと思われた。解像度に不満もなく、逆に突き刺さったりドンシャリという安っぽい傾向も感じられない。
あえて欠点として感じたのは、ボリュームを上げたくなる点だ。BGM的に絞った音量ではやや当たり前の音になり、大音量に近付けると迫力(ラウドネス特性とか言う次元ではなく)が増していく。自然というよりも「ややオーディオ的」な高音質という印象であった。
次に「Topping・E70 VELVET」を試聴
こちらも数日をかけて慎重に視聴した。
新型であるため、AK4499EXは他所でも聴いたことがない。AKMは、過去に2機種所有して聴いていたことはある。個人的な印象と記憶では、すっきり系から進化に連れてこってり、立体的になっていくという先入観があるが、結果はそれ以上であった。
よく出来た一部のスピーカーは、スピーカーの存在感を消し去るといわれることがる。それに似た現象が起こった。自然な奥行き感がこれまでのものとは断然進化している。とにかく、音がすっと伸びてくるように感じた。
視覚に例え、演劇やミュージカル、イベント・アパフォーマンスのステージを観ているとしよう。ESSの飛び出す絵本的効果は、舞台に薄く炊かれたスモークの中で、計算された多色の照明効果で観ている演出された舞台だとすると、こちらは、複数の白色系のスポットライトを当てた素に近い自然さだ。
アナログ時代の高度なオーディオシステムや、調整室で聴くマイクから直接(ケーブルやアンプ、ミキサーは通るが)聴いている自然さを思い起こす。ハイレゾ(偽レゾでないもの)もその違いを明確に感じさせる。
さすがにAKMも工場火災というオウンゴールで、市場のシェアを失った失地回復のため、かなり工夫し、Toppingにもそのうま味を充分理解させたのであろうと想像できた。
欠点は、価格を抑えるためか機能(専用レベルのヘッドフォンアンプ、MQA、I2s入力など)を絞った点だと指摘できなくもない。
まとめ
繰り返しになるが、DACの音質はチップのみでは決まらない。その周辺回路や実装技術の総和となる。またチップ数もハイエンド機は複数化される傾向が強い。
Topping含め、大手の中国メーカーが矢継ぎ早にAK4499EX搭載機をリリースした。もちろん、新しもの好き狙いの意図もあるだろう。世界中のマニアが注目する米国の技術系オーディオサイト「オーディオサイエンスレビュー」でも、中国の大手DACメーカーの製品はいち早く紹介され、テスト・評価されている。総じて高評価で、価格面だけではない優位性がしばしば指摘される。今回紹介した製品も同様だ。
ESSは、すでに更なる新製品を発表している。今回試聴したES3098Proは、ハイエンド含む世界中のメーカーで試行錯誤され、高度な調理をされていて実績がある。これを選択するのに何ら不都合はないだろう。
一方のニューフェースのAK4499EXは、「2020年代の音はこうです」と語りかけているような新しさを感じる。ただし新鮮な音というニュアンスではなく、これまで評価を得てきたバーブラウン、ESSそしてAKMの従来製品の良いとこ取りして、アナログライクに寄せたという印象である。
今回試した2機種は、これから入手しても中上級マニアが長く使用できるレベルであると確信した。もちろん、コストを惜しまないこだわり派やコレクターは、他にも新規参入のロームや各社開発のディスクリートDACが製品化されているため、アナログ盤のカートリッジのように取っかえひっかえが今後も続けられることは想像している。
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